《4》 何度、桜の季節が来ても3 - ナイショの妖精さん5
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《4》 何度、桜の季節が来ても3

  17, 2022 21:47
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「『巻きもどしの法』だね。わたしもリズからきいたことがあるよ」


 鵤さんが、部屋の中を歩いていって、お母さんの座るイスの後ろに立った。


「フェアリー・ドクターは、自分のかけた魔術をリセットしたいとき、巻きもどしの法をつかうらしい。そうすると、物事が巻きもどって、ゼロになるのだとか」

「はい。いつものように、フェアリー・ドクターの薬をつかっただけでは『巻きもどしの法』はつかえないのですが。今回のよみがえりは、いちおう儀式めいたものだったので。儀式には有効な手段だと、とうさんの本に書いてありました」

「つまり、こういうことよね。ハグの入ったリズの体を、墓地までつれて行って、『巻きもどしの法』を行う。そうすれば、あの人の体から、ハグの魂が出ていく。でも、それからは? ハグの魂はどこに行くのかしら?」

「たぶん……うちの鏡に入ると思う。ハグはもともと、うちのカフェの鏡の中に、モヤになって入り込んでいた。たとえば、ハグを鏡にもどして、鏡を割ったら……ハグの魂も消えるのか?」


 ヨウちゃん、あごにこぶしを置いて、考え込んでる。


「それでもダメなら……たとえば、土にうめたらどうかしら?」


 わぁ……お母さんてば、過激!


「まぁ、こればっかりは、やってみるしかないね」


 鵤さんが丸い体をゆらして、ため息をついた。


「儀式をして、リズからハグの魂を切りはなす。そして、ハグが出てこられなくなる対処をする。それで終わってくれるのが一番なんだが。先のことは……また、そのつど考えていくしかないね……」

「そうね……不安はのこるけど、今はできることをするしかないわね」


「ありがとうございます。鵤さんやかあさんがいっしょに考えてくれるから、オレも心強いです」


 ヨウちゃんは、組んでいた足と腕をおろして、ふたりに深々と頭をさげた。


 なによ……。あたしは数に入ってないんだ……。



 あたしはひとりで、管理棟の入り口のドアに背中でもたれて、ぼんやり。


 みんなのむずかしい話は、わかったような……。わかんないような……。


「問題は、どうやって、ハグを墓地につれて行くかだな」

「それなら、アグリモニーの葉をつかえないかしら? たしか、乾燥させた葉や茎は、食べ物にまぜると、眠り薬になるんだったわよね。それで、二、三時間は寝かせられるはずよ」


 お母さんが、ピンと人さし指をたてた。


「でも、かあさん……アグリモニーの葉なんて、庭にはもう……」

「それがね。庭にはなくても、カフェの店内にあるの。ほら、昔、葉児がつかったアグリモニーの葉があまってたでしょ。それを今、カフェの壁に、ドライハーブにしてつるしてあるのよ」


「それだっ!」


 ヨウちゃん、身をのりだす。


「清子さん、フェアリー・ドクターの薬のことに、いつの間にそんなにくわしくなったんだい?」


 鵤さんにきかれて、お母さんははずかしそうにほっぺたを赤らめた。


「葉児にいつか読んでもらうために、あの人の書いた日記を翻訳してた時期があるんです」


 そっか……だから……。


 フェアリー・ドクターの洗礼を受けただけで、なんにもしてないあたしなんかより、お母さん、ずっとくわしい。


「リズの食事に、わたしがアグリモニーの葉をまぜます。そうすれば、不自然なくあの人を眠らせることができるでしょう。そして……車に乗せて、墓地まで運べば……」



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