《4》 何度、桜の季節が来ても1 - ナイショの妖精さん5
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《4》 何度、桜の季節が来ても1

  03, 2022 11:39
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「これ……リズにやられたのっ!? 」


 ヨウちゃんのケガを見ると、お母さんは両手で口をおおった。


「だから、お母さん。ヨウちゃんのお父さんじゃないんです。お父さんの姿をしているのは、外見だけで、黒いタマゴの中身が入ってるんです」


「葉児……綾ちゃんが言ってること、本当なの……?」


 お母さんが、目に涙をためて、ヨウちゃんにたずねる。


「……ああ」


 パイプイスに座って、ヨウちゃんは、重たそうにつぶやいた。


「なんで……なんで、こんなことに……」


「清子さん。葉児君は黒いタマゴの中身……つまり、ハグに脅迫されていたんです。そのせいで、こんなことになってしまった。一番の被害者は、葉児君です」


 管理棟のせまい部屋で、鵤さんが説明する。


 お昼をまわって、塾から帰ってきても、植物園はほぼ、お客さんがゼロだった。

 管理棟の中でヨウちゃんは体を休めていて、鵤さんは、荒らされた植物の茎に寄木を立てていた。



「……かあさん……ごめん。これでオレは二回も、かあさんから、とうさんを取りあげることになる……」


「ちがうわ! そんなんじゃないっ!! 」


 お母さんが顔をあげた。イスに座るヨウちゃんの前にひざまずいて。ぎゅっとヨウちゃんの両手をにぎって。


「リズが亡くなったことは、わたしもちゃんと理解しているつもりだった。なのに、リズの姿を目の前にして、舞いあがってしまった、わたしがいけなかったの! わたしは冷静な判断ができていなかった! あなたが……大切なあなたが、こんなにつらい目にあっていたのにっ!! 」


「……かあさん……」


「葉児……人は、ある日とつぜん、そばから消えたりするものよね……」


 ヨウちゃんの手の甲を見おろして、お母さんはさみしげにほほえんだ。


「のこされた者は、その穴がうまらなくても、それでも生きていかなきゃならない。苦しいことだけど……それでも……だからこそ、わたしは、人といっしょにいる時間を大切にしなきゃって、思うようになったのよ。

わたしが、今、大切にしなきゃいけないのは、リズの幻じゃなくて、今、ここにいる、あなたよ」


 ヨウちゃんは、何度も鼻をすすっている。


「あ、あたし、レモンバームの塗り薬つくるね!」


 あたしは部屋のすみに逃げ出した。

 だって、弱ってるヨウちゃんを見るのって、ホンットきつい。


「鵤さん、ここのコンロ借ります!」


 管理棟にそなえつけられた小さな流しとコンロ台。その前に立って、あたしは立てかけられているまな板をおろした。

 鵤さんに包丁を借りて、レモンバームを千切りにしていく。


 えっと……その先のつくりかたはどうだったっけ?


 あたし、秋に一回だけ、この薬をつくったことがある。

 だから今は、頭の中の記憶がたより。


「たしか……水、一リットルに、レモンバーム十グラムを入れて、濃縮……。――鵤さん、ビーカーと計量スプーン貸してください!」


 分量通りになべに入れたら、きっちり百ミリリットルまで濃縮させなきゃならない。

 それが、とってもむずかしい。

 カチッとコンロをとめて、ガーゼで葉っぱをこしながら、耐熱ビーカーにそそいでいく。


「うあ……七十九ミリリットル……。しっぱい」



「貸してみろ」


 ふり返ったら、後ろにヨウちゃんが立っていた。






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