《3》 真実を追いかけて13 - ナイショの妖精さん5
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《3》 真実を追いかけて13

  18, 2022 21:03
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「今、塾の帰り? 葉児には……とうぜん会えてないわよね」


 青いスーツを着て。お母さんの目の下には、クマができている。生気をぜんぶ吸いとられちゃっているみたい。

 あたしはくちびるをひきむすんで、立ちどまった。

 ヨウちゃんが無事だってこと、お母さんに話したい。

 だけどそしたら、ハグにまでバレちゃう。


「今ね、警察の人にお話してきたの。葉児が行方不明だってこと。あの子、今まで一度も、家出なんてしたことなかったのよ。それがまさか、こんなことになるなんて……。まして、あの子が家の中を荒らすなんて……。あの子が……そんな……暴力的なことを……」


「お母さん。ヨウちゃんのお父さんとは、いっしょじゃないんですか?」


「リズなら、家で留守番してくれてるわ。お店は臨時休業にしたんだけど。リズが、少しでも家のかたづけを進めておこうって、言ってくれて……」


 あ……なんかまた、ムカムカっ!


「なんで、お母さんって、お父さんの言うこと、うのみにしちゃってるんですかっ!? 」


 あたしはぎゅっと、レモンバームの入ったナイロン袋をにぎりしめた。


「……綾ちゃん……?」


 お母さんの目が、力なくあたしを見返す。


 有香ちゃんとあんまりかわらないくらいの身長。目が大きくてカワイイお母さん。だけどたまに、ハッと、目の覚めるようなことを言ってくれるから、あたし、お母さんはスゴイ人だって思ってた。

「お母さんみたいな、おとなになりたい」って、思ってた。


「リズさんが言ったことなら、なんでも正しいんですかっ!?  だいたい、あの人、ヨウちゃんのお父さんの顔や格好はしてるけど、八年間も会ってなかった人なんでしょっ!?  お母さんは、そんな人を信じて、十二年間もいっしょにいた、自分の息子をうたがうんですかっ!? 」





公開用 5巻 綾怒る_2





道行く人たちがあたしを見ている。おとなにエラそうにものを言う、チビなガキを。


「あたしは、ヨウちゃんの味方ですっ! お母さんのことなんか、もう知りませんっ!!  でも……。もし……ヨウちゃんのことを信じてくれる気持ちがあるなら……。お母さん……あたしといっしょに来てくださいっ!」


 あたしはうつむいて、くちびるをかんだ。


 ……怖い……。


 ママでもないおとなに、怒鳴りつけてしまったことが。

 それで伝わったかどうか、知るのが……。



「……行くわ」


 顔をあげると、ヨウちゃんのお母さんがほほえんでいた。

 涙のたまった目。クマは重くてつらそうで。だけど、ほっぺたにはぽっくり、エクボができている。


「綾ちゃん、ありがとう。……そうよね。葉児はわたしが育てたのよね。十二年間、毎日ずっといっしょにいたの。あの子に何があったのか、本当のことを知りたい。綾ちゃんがそれを知っているなら……どうか、わたしをつれて行ってください……」


 あたしにさしだされるお母さんの手。

 ドキドキしながらにぎったら、指が長くて、やわらかかった。

 うちのママみたいにマネキュアをつけてなくて、つめもギリギリまで短く切られてる。


 毎日水仕事をして、つかい込まれた手。







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