
あたし、ぎくしゃく、ロボットみたい。
右手を右足を同時に出して、山門をくぐると、中には日本庭園が広がってた。
足元にしきつめられているのは玉砂利。石灯篭や、竹のシーソーみたいな、ししおどしまである。
だけど、そのまわりで刈り込まれた葉っぱをよく見たら、ヨウちゃんちのお庭に植わっている葉っぱに似てた。
「……もしかして、ここにあるのって、ぜんぶハーブですか……?」
「そうですよ。地植えがほとんどなのでね。冬は葉の枯れているものばかりですけどね。ほら、この一帯が、レモンバームね。レモンバームは葉っぱが黄色くなってしまうけど、なんとか枯れないでがんばっているわね」
涙がこみあげてきた。
足元におい茂っているのは、ヨウちゃんちで何度も見た、ギザギザの葉っぱ。シソの葉っぱのミニチュア版みたい。
「あの……この葉っぱをわけてください」
「どうぞ」
橋本さんがほほえんだ。
「葉っぱがぜんぶなくなってしまっても、根や茎さえのこっていれば、春にまた新しい葉がたくさん出てくるんですよ。でもあなた、ハーブティーか何かで葉っぱをつかうのなら、新しい緑の葉のほうがいいんじゃないかしら? 春までは待てないのよね?」
「はい……今すぐじゃなきゃ、ダメなんです」
「わかりました。どんな事情があるのか知らないけど。どうぞ。好きなだけ持っていって」
「ありがとうございますっ!」
橋本さんが園芸バサミを取りにいってくれている間に。あたしは、レモンバームの前にしゃがみこんだ。
指先でふれると、つんとレモンみたいな青いにおいがする。
「レモンバームさん、お願い。ヨウちゃんの傷を治す薬になって」
あたしの呼びかけに答えるみたいに、レモンバームの葉っぱの表面が、ふわっと虹色にかがやいた。
オーロラみたい。
虹色は、何事もなかったかのように、またすうっと葉っぱの中に消えていく。
これ、あたしのフェアリー・ドクターの力。
あたしとヨウちゃんは、去年の九月、フェアリー・ドクターになるための洗礼を受けた。
妖精は自然の一部みたいなもの。だから、自然と自分の間の隔たりをなくすために、洗礼を受ける。そうして、自分も自然の一部だってことを、体に思い出させる。
で、自然と一体になったら、やっと妖精との隔たりもなくなって、妖精を助けたり、妖精から、身を守ったりする薬をつくれるようになるんだって。
「はい。このハサミをつかって」
お茶室みたいな和室の障子が開いて、橋本さんが縁側からおりてきた。
ハサミを借りて。あたしはレモンバームの葉っぱをチョキチョキ。
ナイロン袋をもらって、そこに葉っぱをつめこんで。
「ありがとうございましたっ!」
「いいえ。お役に立ててよかったですよ」
にっこりと、目じりをさげる橋本さん。
ぺこぺこ、ぺこぺこ。五回も十回も頭をさげて。あたしはまた、山門をくぐって外に出た。
ヨウちゃん!
ヨウちゃんっ!!
これで傷を治せるよっ!!
歩いていた足が、早歩きになって、あたし、走り出す。
走っても、走っても、走り足りない。
早く、早く、浅山に行かなきゃっ!!
駅を越えて、家の近くまでもどってきたら、国道に出た。
歩道のわきを、車がびゅんびゅんと通っていく。左右にならぶ建物は、市役所に消防署に、警察署。
「……綾ちゃん?」
警察署の前を通ったとき、門から出てくる人が見えた。
女の人。髪の毛をゆるくパーマさせた、背が低くてカワイイ感じの。
……ヨウちゃんのお母さん。
次のページに進む
前のページへ戻る
コミカライズ版もあります!!

【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん

【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん
【漫画動画1巻1話】

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト