
おばさんは、スマホをスクロールさせて、指をとめる。
「やっぱり。橋本さんなら、レモンバームを育ててるわ。ほら、こないだのブログでも、写真をアップしてるもの。すぐ近くだから、直接おうちをたずねてみる?」
「は、はいっ! 場所、教えてください」
「じゃあね。ほら、この地図の画面見える。今ね、うちがここなんだけど……ここの道をまっすぐ行って。小学校の角を右にまがって。そしたら、左にファミマがあるから……」
おばさんが、スマホの地図アプリを開いて、説明してくれる。
「……わかった?」
「……う、う~んと……」
「なにか紙ある? 地図書こうか?」
けっきょくノートの切れ端に地図を書いてもらって。あたしは、「ありがとうございました」と頭をさげた。
「こちらからも、橋本さんに、あなたが行くこと、電話しておくわね」
わ……やさし~。
「あ、ありがとうございますっ! ありがとうございます! ありがとうございますっ!」
張り子の虎みたいに、ぺこぺこ頭をさげて、あたしは道を歩き出す。
よかったっ!
いい人に会えて、本当によかったっ!!
「あ、あなた! 道、そっちじゃないわよっ! 小学校の角を右!」
おばさんがあわてて追いかけてくる。
「ああっ!? ま、まちがえたぁっ!」
ホント、あたしって、どうしてこう、アホっ子……。
大脇小学校の角を右にまがって。コンビニの横を左にまがって。
さっきよりは太い通り。車道の左右に、緑色に舗装された歩道がちゃんとついている。
三本目の横道が見えてきた。
横道を越えてすぐ左が、たしか、橋本さんの家。
「うわ~……」
あたしは、茅葺のついた山門を見あげた。
お……お寺……?
まわりの塀も、ブロックじゃなくて、竹。これ、「竹囲い」ってやつ?
山門に「橋本」って、木彫りの表札は出てるけど。
木戸はガッチリしめきられていて、まるで金庫の扉みたい。
わ~ん! 胃がキリキリしてきたぁ~っ!!
人んちの前を行ったりきたりしてたら、おじいさんが自転車をこいで通りすぎた。
ふらふら左右にゆれながら、あたしをふり返っている。
って、こんなトコでチャイムも押さずにいる時点で、あたし、すでにヘンな人っ!?
え~い! ヨウちゃんのためだっ!!
勢いよくチャイムを押すと、ピンポーンと音が外まで響きわたった。
「はぁい~」
山門についたインターホンに、女の人の声が出る。
おばあさんかな? おっとりしてて、ちょっとしわがれている。
「あ、あの……あたし、レモンバームがほしくて来たものです……」
うう……自己紹介、ナゾすぎる……。
「ああ、はい。今開けますよ」
しばらくして、ガタタと、山門の戸が開いた。
立っていたのはほっそりした、白髪のおばあさんだった。ほおはこけていて、首にアコーディオンみたいに何重もしわが寄ってる。
小花のちりばめられた青いワンピースに、グレーの厚手のカーディガン。分厚い手編みみたいなくつ下に、サンダルをはいて。
なんていうか……イギリスの民家の、暖炉の前に座っていそう……。
「小松さんが電話で話してたのは、あなたね。お名前は?」
おばあさんがにっこり笑うと、しわに囲まれた目がたれさがった。
「あ……あの……和泉綾ですっ!」
「わたしは橋本富子です。どうぞ、中に入って」
「あ、ありがとうございますっ!」
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