
無謀かもしれない。
でも、動かないでいるより、ぜんぜんマシっ!
駅の高架をくぐって反対側に出ると、ロータリーの奥に古びた商店街があった。
まるでシャッター街。花田は田舎だから、電車が三十分に一本しかとまらない。だから、住民のほとんどが車生活。買い物に行くような大型店舗は、大きな道ぞいに集中してる。
碧ちゃんが描いてくれた地図を見ながら、あたしは商店街に入っていった。
ひっそりと静まり返っちゃって、この世から人が消えたみたい。
薬局とそば屋の間に路地を見つけた。
人ひとり歩けるくらいのせまい道。左右にブロック塀を見ながら先に進むと、住宅街に出た。
瓦屋根が多くて、昭和時代の家って感じ。同じ形の平屋が六棟もならんでる。
ブロック塀で寝ている猫を見あげながら道を抜けて。角をまがって。あたしはノートに赤で丸がされた家に、たどりついた。
門越しにのぞきこむと、庭に鉢がならんでる。
通りの反対側には、碧ちゃんの苗字の「近藤」という表札。
ここだ……。
ええっと……。なんて話そう……。
「レモンバームを持ってたら、わけてください」?
でも、初対面の人に、とつぜんそれ言う?
どうしよう……あたし、あやしすぎ……。
え~い、考え込んでる時間、もったいないっ! 押しちゃえ~っ !!
塀につけられたチャイムに指をのばしたとたん。
「そのチャイム、故障してて鳴らないわよ」
「ほ、ほぇっ?」
ふり返ると、両手に買い物袋をさげたおばさんが立っていた。
「あなた、うちに何か用?」
ママよりも十か二十くらい上かな? おばさんとおばあさんの中間ぐらいの年齢の人。
「え……えっと。あの、あたし近藤碧ちゃんと同じ塾に通ってる和泉綾っていいます。……あの……おばさんの家でハーブをいっぱい育ててるって、きいて。れ、レモンバームがあったら、葉っぱを少しわけてほしいんですっ!」
わ~! われながら、言ってることあやしすぎ。
ガバッと頭をさげて。
おそるおそる顔をあげると、おばさんは、あごを二重あごにしてほほえんでいた。
「レモンバーム? うちにも前はあったんだけどね。夏に蒸れて、枯れちゃったのよねぇ」
「……そうですか……」
これで、あっさりふりだし。
この先、どうやってさがそう……。
「あなた、レモンバームの葉っぱが必要なの? ハーブティーをつくりたいなら、ほら、西湾のショッピングモールに行けば、二階にハーブの専門店が入ってるから。そこで売ってるんじゃないかしら」
「あ……あの……乾燥した葉っぱじゃなくって、青い葉っぱがほしいんです……。えっと、その……あの……学校の理科の観察でつかうんで……」
なにこの、苦しい言いわけ……。
「そうなの……?」
「う~ん」と考え込んでから、おばさんは手さげからスマートフォンを取り出した。
「レモンバームなら、たしか……橋本さんが……」
……え?
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