
なんで、塾っ!?
こんなときに、塾っ!?
今、のんきに勉強とかしてる場合っ!?
ふだんから、算数の文章問題なんか理解できないのに。きょうなんて、日本語がぜんぶ、象形文字に見える……。
ぼんやりシャープペンをカチカチしながら、授業が終わるのを待って。時間が来ると、あたしは真っ先につくえから立ちあがった。
塾のカバンの中に、ペンケースとノートと算数ドリルとつっこんで、走り出そうとすると、「綾ちゃん」ってとめられた。
ふり返ったら、碧あおいちゃんと莉那りなちゃん。
おかっぱの髪にしてる子が碧ちゃんで、マッシュルームみたいなボブ頭が、莉那ちゃん。
ふたりともおとなしくて、いつも、教室のはじのほうで、くすくすナイショ話してるから、最初は「ふたごかな?」って思ったぐらい。
きいたら、駅向こうの大脇おおわき小学校で同じクラスなんだって。
最近、塾であたしはよく、このふたりと話すかな。
「ねぇ、綾ちゃん、お昼はまっすぐ家に帰るの? いっしょに駅前のマック、寄ってかない?」
「莉那ちゃんがね、スマホでクーポン、ゲットしてくれたから。ポテトがタダだよ」
「えっ ご、ごめん。また今度。あたし、いそぐ用事があって……」
言いかけて、「あっ!」とさけんだ。
「莉那ちゃんって、たしかガーデニングが趣味って言ってたよねっ!? ハーブも育ててる 」
「ハーブ? えっと……うん。うちのベランダにあるよ」
やった!
だって、「レモンバーム」って、わりと人気のあるハーブ。春や秋は、ホームセンターの園芸コーナーにもならんでる。
「ね、レモンバームは育ててない?」
「え……? うちにあるのは、ミントとローズマリーだよ。前にワイルドストロベリーも育ててたけど、枯れちゃった」
がっくり。
そんなうまくはいかないか……。
「ハーブかぁ~。そういえば、うちのお向かいさんが、ハーブ、たくさん植えてるかも」
碧ちゃんが、自分のあごに人差し指を置いた。
「ホントっ!? 碧ちゃんちって、どこっ!? 」
「……え? もしかして、綾ちゃん、わざわざうちのお向かいまで、見に来る気?」
碧ちゃんと莉那ちゃん、眉をひそめて、顔を見合わせてる。
そりゃそうだよね。なんで、たかだかハーブひとつで、知らない人の家まで、のぞきに行くって話だもん。
だけど今は、気にしてるヒマない!!
「緊急なの。お願いっ! 場所だけでいいから教えて! 地図に描いてっ!! 」
かばんにしまったノートをまた出して、碧ちゃんの前に広げると、「わたしは、マック行くから、家までつれて行けないよ?」と言いながらも、地図を描いてくれた。
駅の向こう側。商店街から、ちょっと入っていった住宅地。
あの辺りは細い道路が入り組んでいるけど。行ってみれば、なんとかなるかも。
「ありがとうっ!」
ノートを閉じて、胸に抱える。
「バイバイ、綾ちゃん」
「また、次の塾でね~」
ふたりに手をふって、あたしは、塾の外にかけだした。
次のページに進む
前のページへ戻る
コミカライズ版もあります!!

【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん

【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん
【漫画動画1巻1話】

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト