
「許せないっ! ハグだかなんだか知らないけど、ぜったいに許せないっ!! だって、あいつ、ヨウちゃんを妖精たたきにあわせるために、妖精の子の羽まで切ったんだよっ!
書斎の薬をぜんぶ壊して。庭も、植物園まで荒らして。しかも、それをぜんぶ、ヨウちゃんのせいになすりつけるなんてっ! やりかたが卑劣すぎるっ!! 世の中、やっていいことと悪いことがあるよっ!! 」
あたしはクっと肩の力を抜いた。目を閉じると、背中で銀色の光がチカチカとまたたきだす。
銀色のりんぷん。人間のあたしの体の中にいる、妖精のあたしの羽。あたしの背中に、銀色のアゲハチョウの羽がはられていく。
「ヨウちゃん、だいじょうぶ! あたしがすぐ、りんぷんで治してあげるからっ!」
だって、妖精の羽のりんぷんは、万能薬っ!
レモンバームの薬がなくても、あたしならヨウちゃんを治してあげられるっ!
「アホかっ!! やめろっ!! 」
ヨウちゃんがさけんだ。
「綾! その羽を、さっさとしまえっ!! それこそ、ハグの思うつぼだっ! あいつは、わざとオレを傷つけて、おまえのりんぷんで治させようとしてるんだっ!! 」
「……え?」
肩に力を入れて、あたしは羽を背中にしまった。
「……なんで……?」
「りんぷんをつかいきったら、妖精は消滅するだろ。あいつはそれをねらってる! あいつは、オレのせいで、りんぷんをつかいきって、消滅するおまえを見たいんだよっ!! なにより、おまえが消滅して苦しむ、オレの姿を見たいんだっ!! 」
「ひ、ひどい……」
そんな卑劣な人間って、世の中にいるの……?
目を赤くして、あたしを見つめるヨウちゃん。その肩や腕や背中につけられた無数の傷……。
いるんだ……。
だって、あいつは……人間じゃない……。
恨みそのものが、形を持ったような存在――。
「……綾ちゃん」
鵤さんがため息をついた。
「きみの許せない気持ちは、よくわかるよ。わたしだって同じだ。だけど今は、落ちついて、ひとつずつ、解決していこうか。
まずは、レモンバームの葉をさがそう。フェアリー・ドクターの薬をつくって、葉児君のケガを治す。わたしは、業者にかけあってみるよ。レモンバームの鉢がどこかにあまっていないか、きいてみよう」
「あ、あたしも、だれかレモンバームを育ててる人がいないか、さがすっ!」
ぐっと、こぶしをかためたとき、ピロロンとキッズケータイが鳴った。
「……え?」
コートのポケットから引っぱりだすと、画面に表示されているのは、「ママ」って文字。時計表示は九時五十三分。
うあ~っ! ものっすごい、ヤな予感……。
「も、もしもし……」
そろそろとケータイに耳をつけると、ママのキンキン声がとびだしてきた。
「綾っ!? あと七分で、塾がはじまるわよ? 今、どこでなにしてるのっ!? 」
ぎゃっ! やっぱりっ!!
「さっさと、塾に行きなさいっ! サボリは許さないからねっ!! 」
「は、はい~」
のろのろとあたしは電話を切った。
「……ヨウちゃん、鵤さん、ごめんなさい。あたし……塾に行ってきます……」

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