《3》 真実を追いかけて7 - ナイショの妖精さん5
fc2ブログ

《3》 真実を追いかけて7

  27, 2022 21:35
5_3.jpg


 鵤さんがかがみこんで、ファンヒーターのスイッチを押した。

 せまい管理棟の中が、ヒーターの熱で、あっという間にぬくもっていく。

 ヨウちゃんは自分のトレーナーのえりもとをずらして、右肩を見せた。


「……なにこれ……?」


 ビクッと心臓が痙攣する。

 刃物でスパッと切られたような傷がついている。にじみだした血が茶色くかたまっている。


「ここだけじゃない」


 ヨウちゃんはトレーナーをぬぎ捨てる。インナーのシャツまでいっしょにぬげる。裸になった上半身のあちこちに、絆創膏がはられていた。ふたつならべていたり。大きな絆創膏をつかったり。だけど、傷は絆創膏からはみだしている。

 とてもじゃないけど、絆創膏で治せるような傷じゃない。


「これって……妖精たたき……?」


 過去の記憶が、あたしの胸でざわついた。

 妖精が悪意を向ければ、羽はカミソリみたいにスパスパと切れる。妖精が巻き起こした「妖精風」は、まるで、カマイタチみたいに、人の皮膚を切り裂く。

 妖精につけられた人間の傷は、フェアリー・ドクターがつくった薬か、妖精のりんぷんでしか、治せない。


「ヨウちゃん、薬はっ!?  レモンバームの塗り薬っ!」


「ハグに、速攻で捨てられた。うちの庭を荒らしたのも、ここの植物園を荒らしたのも、おそらくあいつだ。あいつはオレの行く手に先回りして、オレにフェアリー・ドクターの薬をつくらせないようにしてる……」


「……ハグ……?」


 って、英語だと「抱きあう」って意味だったような……。


「鬼婆と書いて、ハグ。イギリスに伝わる、老婆の姿をした黒い妖精の名前だよ」


 うあっ! 意味、ぜんぜんちがう!


「ヨウちゃん、そいつが……黒いタマゴの中身なの……?」


「黒いタマゴ……? 葉児君、またなにか、被害にあっているのかい?」


 鵤さんが眉をひそめる。

 パイプイスに座ったまま、ヨウちゃんがうつむいた。


「とうさんに……オレの父親の中に……今、黒いタマゴの中身が入ってます。そいつの正体は、おそらくハグ。でも、孵化する前に、オレがタマゴを割って壊したから、あいつは本当の姿を持つことができない。

それを恨んだあいつは、オレに、父親を墓場からよみがえらせるようにと、せまりました。そして、父親の体にあいつが入った……。今、本物のとうさんのふりをして、あいつは、オレんちにいます……」


「な、な、なんということだ……。リズに……」


 鵤さんがひげごと両手で、口をおおう。


「ごめんなさい。人道に反したことをしたのは、オレです。あいつの言うままに、とうさんをよみがえらせた。そのせいで何が起きるかは、予想がついた。

けど……あいつ……オレのせいで、とうさんが死んだんだって……。オレのせいで、かあさんが悲しんだんだって……。だから、オレが責任を取るべきだって……」


「……葉児君」


 こぶしをかためて、肩を震わせるヨウちゃん。その頭に鵤さんは、やさしく手を置いた。


「きみのせいじゃないよ。リズも、清子さんも、ちっともそんなことは思ってない。リズはわたしと飲むたびに、きみの自慢話をしてたんだぞ。小さいのに賢い。四歳にして、すでに自転車を乗りこなせる。運動会のかけっこで一番だった……。われながら、親バカだと笑っていたさ。

リズが黒いタマゴを妖精の手からとりあげたせいで、リズが襲われたなら、それはリズの不注意だ。本人だって、ちゃんとわかっているよ」


 ヨウちゃんがしゃくりあげる。青白いほっぺたを、ぽろぽろと涙が伝っていく。


 ……許せない……。


 あたしの胸は、めらめらに燃えあがっていた。


 ビビリでヘタレのヨウちゃんを、ここまでフルボッコにするなんて……。





次のページに進む

前のページへ戻る



コミカライズ版もあります!!


【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画動画1巻1話】



にほんブログ村


児童文学ランキング



スポンサーサイト



Comment 0

What's new?