
「……え?」
あたしも鵤さんの後ろから、管理棟の中をのぞきこんだ。
パンフレットをわたしたり、案内をする窓口になってる管理棟。
四畳半くらいの小さな部屋に、受話器や電気器具がとりつけられている。奥には、お茶を飲むためだけみたいな、簡易的なコンロと、小さな冷蔵庫。
部屋でパイプイスをふたつくっつけて、ヨウちゃんが横たわっていた。肩にモッズコートをかけて、寝息を立ててる。
「よ、よ、よ、ヨウちゃんっ!? どうして、ここにっ!? 」
あたしは鵤さんのわきをくぐり抜けた。
部屋に踏み込んで、肩をゆすぶると、ヨウちゃんがうすく目を開ける。
「え……綾……?」
「……ヨウちゃん……」
なんだか鼻の奥がつんとした。
眉をしかめて、ヨウちゃんが体を起こす。腕をついたり、背中をうかしただけで、苦しそうに歯を食いしばってる。
そういえば、ヨウちゃん、数日前からずっとそうだ。あたしがちょっとさわっただけでも、すごく痛そうにしてる。
「ね、ヨウちゃん……もしかして、どこかケガしてる……?」
だけど、あたしの問いを、後ろから入ってきた鵤さんの声がさえぎった。
「葉児君……。まさか、きみなのか……? 園内を荒らしたのは……」
「……え?」
ヨウちゃんが、力の抜けた目で、鵤さんを見つめ返した。
ひげにかこまれた鵤さんの口元。いつもやわらかい笑みをうかべてる口元が、けわしくゆがんでいる。
「ち、ちがうっ! オレじゃないっ!! 」
ヨウちゃんの目がうるんだ。
「でも……それなら、なんできみは、こんなところにいるんだ。警備システムも壊されているようだ。そんなことができたから、きみはここに入り込めたんじゃないのかね?」
おだやかなのに、すごみのある鵤さんの声。
「……ちがう……」
ヨウちゃんは、ふらっと立ちあがった。足に重心をかけたとき、また口元が引きつる。
痛そうっ!
「ヨウちゃんっ!! 」
手をさしだしたあたしの肩に、両腕をかけて。
だけどすぐに、ヨウちゃんはあたしから手をはなして、横をすり抜けた。
「ヤダ、待ってっ!」
本能がさけんでる。
このままほっといたら、ヨウちゃん、本当にどこかに消えちゃうっ!
あたしは、ヨウちゃんのわきの下にかじりついた。
「行かないでっ!! ヨウちゃんはそんなことしないっ! ヨウちゃんは園内を荒らしたりなんかする人じゃないっ! ヨウちゃんの味方はちゃんといるから、だいじょうぶっ!! 」
「……綾……」
うつむいた琥珀色の前髪の下で、くちびるが震えだす。
肩を落としてうなだれたヨウちゃんを、鵤さんが下からのぞきこんだ。
「なにがあったのか……話してくれるかい?」
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