
浅山が近づいてくる。
葉の落ちた木々が間近にせまってきて、すぐに道は、雑木にかこまれる。
アスファルトのくねくね道のわきに、「浅山登山道」という立て札が出ていた。
そこからつづく細い土の道を、あたしはのぼっていく。
急なのぼり坂に、胸はすぐに悲鳴をあげる。痛いふくらはぎで、のぼってものぼっても、木々にかこまれた道はつづいていく。
登山道の左横が開けた。
一面に広がるヒースの茂みが、冬風にゆれている。
奥に、赤茶けたレンガ造りの壁が見えた。同じ大きさのアーチ状の入り口が横に四つならんでる。
浅山の戦争遺跡。第二次世界大戦中につかわれていたっていう砲弾倉庫跡。
ここであたしは、ヨウちゃんと妖精を見た……。
「ヨウちゃん、いる……?」
砲弾倉庫跡の部屋の中を一番右端から、順々にのぞきこむ。
中はがらんどう。電気もなにもない、なにも置かれてない、車庫みたいに四角い部屋。
夜の寒さからしのげるところっていったら、ここしか思いつかなかったんだけど。
……いない。
それに、倉庫跡の中はひんやりと冷たい空気がとどこおっていて、外よりも寒いくらい。
一番左端の倉庫跡をのぞきこんで、あたしは足をとめた。
真ん中に、銀色の粉がチカチカと光っている。
……妖精の……りんぷん……?
中に入るあたしの足音が、部屋に反響した。
レンガ造りのゆかの上に、人間の手のひらサイズの何かが落ちている。
よく見るためにしゃがみこんで、ビクッと体をのけぞらせた。
妖精の男の子が倒れている。くるくる赤毛のショートヘア。見た目は、小一くらい。葉っぱを体に巻きつけて、つるをベルトにして腰でむすんで。
この子……羽がないっ!
銀色のりんぷんの粉だけが、まわりにちらばっていて、その子をぼんやり照らしている。
「ど、ど、どうしてっ!? 」
背中に羽のはえていた跡がある。だけど、ナイフで切られたみたいに、スパッとつけ根から切り取られている。
妖精の子が、金魚のように口をパクパクさせた。
とたん。その体が、銀色の粉にかわった。

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