
塾から帰ってきて電話したら、ヨウちゃんはふつうだった。
「あのね、ヨウちゃん。学校でわたせなかったものがあるの! これから、おうちに行ってもいい?」
きいたけど、「ダメ」ってことわられた。
「もう夕飯の時間だろ? こんな遅くに外出とか、おまえの親だって怒るだろ?」
「う~。そうだけど……」
でも、バレンタインデーが終わっちゃう……。
「……いつでもいいから。あせんなくていいから……」
ふんわり、あったかい声。
胸の奥がきゅ~んってなる。
まるで、「ずっとそばにいるよ」って言ってくれてるみたい。
よかった。
ヨウちゃん、放課後にあたしが誠といたこと、もう気にしてないんだ……。
あしたは土曜日。午前中は塾があるけど、午後ならヨウちゃんに会える。
「そうだ、ヨウちゃん。あした、図書館に行く約束してたよね。じゃあ、午後一時に、市立図書館の前で待ち合わせしよう?」
「……ああ。オッケ」
ふっと空気が抜けたような、ヨウちゃんの笑い声。
よ~し! あしたこそ、チョコレートわたすんだからっ!!
「綾! ちょっと、早く下におりてきなさい」
リビングでママが呼んでいる。
「え~?」
あたしはまだ、ピンクのパジャマを着たまんま。もう七時半だけど、土曜日だからベッドでゆっくりしてたのに。
右に左にとびはねた髪を手ぐしで直しながら、朝日のあたる階段をおりていくと、リビングで、ママが電話の受話器をさしだしていた。
「電話よ。中条さん……葉児君のお母さんから。綾にかわってって」
「……え?」
一瞬で目が覚めた。
ヨウちゃんじゃなくて……ヨウちゃんのお母さんから……?
……なんで?
「あの……もしもし? かわりました」
受話器をぎゅっと耳に押し当てると、「綾ちゃん?」と受話器の奥から声がした。
「朝早くにごめんなさいね。ちょ、ちょっとききたいことがあって、電話させても、もらったの」
お母さんの声、いつもよりもせわしない。早口だし、気が空回りして、つんのめっちゃったみたいに、つっかえる。
「あ、あのね、葉児から、なにか、か、かわったこと、きかされてない?」
「え? ヨウちゃんに? ……ううん」
本当は、お父さんのことについてきいているけど。
お母さんにそれを話すには、まずヨウちゃんに許可を取ってからだと思う。
「葉児がそっちに行ってるってことも、当然ないわよね」
「ないです……」
心臓が痛いくらいに鳴りだした。
「お、お母さん、まさか、ヨウちゃん、家にいないんですかっ!? 」
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