
「綾ちゃん、チョコはもうちょっと細かく刻んだほうがいいよ。溶かすときに、ぜんぶ均等に溶かせるから」
「は、はい。有香ちゃん先生!」
最後のほうは、有香ちゃんに手伝ってもらって、なんとか千切りチョコの完成。
そしたら、なべに入れて、へらでかきまぜながら、弱火で溶かして。
「そういや、綾はチョコ、誠まことにはあげないわけ?」
後ろから、真央ちゃんにきかれて、ドッキリした。
「えっ!? あげないよっ! なんでっ!? 」
「だって、綾って、クリスマスだって、誠にプレゼントやってたじゃん。『友チョコ』とかなんとか言って、今回もやるのかなと思って」
「そりゃ、誠は大事な友だちだけど……でも……チョコは、あげちゃいけないと思うんだ……」
誠は、あたしにはじめて告白してくれた男子。
あたしが、ヨウちゃんとつきあいはじめてからだって、すきを見て、ヨウちゃんからあたしを奪うって宣言してる。
誠は、インフルエンザが治ったとこで。毎日、「おはよう」を言い合う程度で。このごろは、そんなにしゃべってないけど。
チョコをあげたりしたら、誠、期待しちゃう……。
「綾ちゃん、焦げてる、焦げてるっ!」
有香ちゃんの声で、ハッとしたら、なべの中で、チョコがカニみたいに泡をふいてた。
「あ、あああ~っ!! 」
「なにやってんの、綾は。また、一からつくり直しだぞ。板チョコ代がもったいない」
「なによ~。真央ちゃんがとつぜんヘンなこと言うからでしょ~」
ぶ~とほおをふくらましたら、真央ちゃんは「ごめん、ごめん」って笑った。
「でも、綾。成長したな。誠より中条のほうを、ちゃんと選んでるってことだもんな」
「……う、うん……」
ヤダ。なんか、ほっぺた熱くなってきた。
人を好きでい続けるって、きっと、とってもむずかしい。
ただ、恋に、ドキドキ、キュンキュンしてるだけじゃダメなんだ。
ちゃんと、相手のことを見てあげていて、何かあったら、すぐに手をさしのべなくちゃ。
だって、人の心ってふわふわだから。
かんたんに痛んじゃうし。あっちこっちに飛んでっちゃうし。自分の気持ちを相手から隠しちゃったりする。
あたし……これからもずっと、ヨウちゃんといっしょにいられるのかな……?
「またあした、学校でね」って、有香ちゃんの家を出て。
「じゃ、うちはコンビニ寄ってくから」って言う真央ちゃんに、手をふって別れて。
大通りの歩道を、あたしは家に向かって歩いてる。
ガードレールの外は、二車線の国道。車がびゅんびゅんとばしていく。
暮れた空。通りにならぶお店のあかりがまぶしい。
ビビットピンクののれんのお店が近づいてきた。
玄関先に置かれてるブリキのジョーロや、小人の置物がかわいくて、いつも目が行っちゃうフラワーショップ。
だけど、きょうはもう、店じまい。店員さんが、お店の前の植木鉢をかたづけてる。
真っ赤なシクラメンや、紫のパンジー。白とピンクのデンマークカクタス。
お店のはじに白いペンキで塗られた木のたなが置かれていて、そこに小さなブリキ缶がならんでた。
前を通りながら、缶に植わっているものをのぞきこんだら、緑色したバラの花。
え……? なにこれ……?
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