
「ヨウちゃん。ホントになにかあった?」
お昼休みに、あたし、ヨウちゃんを廊下のはじまで引っぱっていった。
上には屋上につづく階段があって、ここまで来るとだれもいない。
「ねぇ、ちゃんと教えてよ。お父さんのことなのっ!? きのうだってヨウちゃん、そうとうヘンだった」
「……あ……ああ……うん……」
ヨウちゃん、あごに手を置いて、ぼんやり。廊下の壁に寄りかかって、窓の外を見て、そのまま三分は動かない。
「ヨウちゃん~……」
なんだか泣きたくなってきた。
前にもヨウちゃんが、あたしになんにも話してくれなくなったことがある。
黒い妖精のタマゴがヨウちゃんを襲ったとき。ヨウちゃんは、黒いタマゴの邪視に毎晩うなされていることを、あたしから隠してた。
「もしかして……また……黒いタマゴの中身がなんかしてきたの……?」
ヨウちゃんはタマゴと戦って、孵化する前にタマゴを壊した。
それで、解決したと思っていたら、中身は、実体を持たない黒いモヤになって生きていた。モヤは、妖精たちにのりうつって、しまいにはあたしの体をのっとった。
それをまた、なんとかかんとか追い出したのは、二週間ちょい前のこと。
「ねぇ、ヨウちゃんっ! あたしはもう、前みたいな、ただの友だちじゃないんだよっ! あたし、ヨウちゃんのカノジョなんだよっ!? ヨウちゃんになにかあったら、話してもらう権利はあるよっ!」
ヨウちゃんの両手のこぶしを、ぎゅっと、あたしの両手のひらでにぎりしめる。
ヨウちゃんは、ハッと、あたしを見返した。
琥珀色の瞳に、小さな明かりがともる。
震える声が、紫色のくちびるからもれた。
「……父親の中に……黒いタマゴの中身が入ってる……」
「……お父さんの……中に……?」
ヨウちゃんの手が冷たい。指先まで血が通ってない。
「どうして……そんなことになっちゃったの……? だって……お父さんは八年も前に亡くなったんでしょ……? お墓に行ったって、体だってもうのこってない……」
「オレがやった」
「……え?」
見あげたヨウちゃんの顔が、くらっと横にぶれた。
今のめまいは、あたし……?
それとも、ヨウちゃん……?
「フェアリー・ドクターの秘儀、死者をよみがえらせる魔術をつかった。あいつに言われたとおりに……ぜんぶ……オレがやった……」
……そんな……。
「どうして、そんなことしちゃったのっ!? おかしいよ、ヨウちゃんっ!? はじめからあぶないってわかってる敵を、自分の手でよみがえらせるなんて! しかも、お父さんの体だよっ!? ヨウちゃんの大事なお父さんの……」
「だって、オレのせいだろっ!? 」
「……え?」
「オレのせいで、とうさんは死んだんだっ! オレが……オレが……あんなこと……『妖精のタマゴがほしい』なんて、言わなければ……とうさんは死ななかったっ! タマゴだって、黒く染まらなかったんだよっ!! 」
……ヨウちゃん……。
きつくつむった目から、涙がこぼれ落ちる。石膏みたいに白いほおを、つっと伝っていく。
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