《1》 はじめまして、お父さん8 - ナイショの妖精さん5
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《1》 はじめまして、お父さん8

  27, 2022 21:51
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「ヨウちゃん。ホントになにかあった?」


 お昼休みに、あたし、ヨウちゃんを廊下のはじまで引っぱっていった。

 上には屋上につづく階段があって、ここまで来るとだれもいない。


「ねぇ、ちゃんと教えてよ。お父さんのことなのっ!?  きのうだってヨウちゃん、そうとうヘンだった」


「……あ……ああ……うん……」


 ヨウちゃん、あごに手を置いて、ぼんやり。廊下の壁に寄りかかって、窓の外を見て、そのまま三分は動かない。


「ヨウちゃん~……」


 なんだか泣きたくなってきた。

 前にもヨウちゃんが、あたしになんにも話してくれなくなったことがある。

 黒い妖精のタマゴがヨウちゃんを襲ったとき。ヨウちゃんは、黒いタマゴの邪視に毎晩うなされていることを、あたしから隠してた。


「もしかして……また……黒いタマゴの中身がなんかしてきたの……?」


 ヨウちゃんはタマゴと戦って、孵化する前にタマゴを壊した。

 それで、解決したと思っていたら、中身は、実体を持たない黒いモヤになって生きていた。モヤは、妖精たちにのりうつって、しまいにはあたしの体をのっとった。

 それをまた、なんとかかんとか追い出したのは、二週間ちょい前のこと。


「ねぇ、ヨウちゃんっ! あたしはもう、前みたいな、ただの友だちじゃないんだよっ! あたし、ヨウちゃんのカノジョなんだよっ!?  ヨウちゃんになにかあったら、話してもらう権利はあるよっ!」


 ヨウちゃんの両手のこぶしを、ぎゅっと、あたしの両手のひらでにぎりしめる。

 ヨウちゃんは、ハッと、あたしを見返した。

 琥珀色の瞳に、小さな明かりがともる。

 震える声が、紫色のくちびるからもれた。



「……父親の中に……黒いタマゴの中身が入ってる……」



「……お父さんの……中に……?」


 ヨウちゃんの手が冷たい。指先まで血が通ってない。


「どうして……そんなことになっちゃったの……? だって……お父さんは八年も前に亡くなったんでしょ……? お墓に行ったって、体だってもうのこってない……」



「オレがやった」



「……え?」


 見あげたヨウちゃんの顔が、くらっと横にぶれた。


 今のめまいは、あたし……?

 それとも、ヨウちゃん……?


「フェアリー・ドクターの秘儀、死者をよみがえらせる魔術をつかった。あいつに言われたとおりに……ぜんぶ……オレがやった……」


 ……そんな……。


「どうして、そんなことしちゃったのっ!?  おかしいよ、ヨウちゃんっ!?  はじめからあぶないってわかってる敵を、自分の手でよみがえらせるなんて! しかも、お父さんの体だよっ!?  ヨウちゃんの大事なお父さんの……」


「だって、オレのせいだろっ!? 」


「……え?」


「オレのせいで、とうさんは死んだんだっ! オレが……オレが……あんなこと……『妖精のタマゴがほしい』なんて、言わなければ……とうさんは死ななかったっ! タマゴだって、黒く染まらなかったんだよっ!! 」


 ……ヨウちゃん……。


 きつくつむった目から、涙がこぼれ落ちる。石膏みたいに白いほおを、つっと伝っていく。




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