
それからも、ヨウちゃんのお父さんは、よく笑って、よく話した。
ハキハキ、英語なまりの日本語で。
だけど、ヨウちゃんはニコリともしなかった。
石膏のような白いほっぺたで。目も氷みたいで。半年前の冷たいヨウちゃんにもどっちゃったみたい。
「――綾ちゃん、どうしたの?」
「……ほぇ?」
ほおづえから顔をあげたら、有香ちゃんの切れ長の瞳が、メガネ越しに、あたしを見ていた。
「あれ? えっと……なんの話してたんだっけ……?」
ここは教室。二時間目の休み時間。真央ちゃんの席を有香ちゃんとかこんで。
あたし、ひとりで、ずっとぽーっとしてたんだ。
「だから、チョコの話だろ? きょう、有香んちで、どんなのつくるのかって、相談。綾、なんか案はない?」
真央ちゃんは、図書室で借りてきた「手づくりチョコ」の本をペラペラとめくってる。
「う~んと……」
あたしの目は、ぼんやり教室のドア。
チョコ……チョコ……。
「あっ! ヨウちゃんっ!! 」
あたしは、ガバっと立ちあがった。
前のドアから教室に入ってきたヨウちゃんは、ランドセルをかついでる。
「ごめん、あたし、ヨウちゃんとこ行ってくるね!」
「まぁ、中条が遅刻って、めずらしいもんな。気になるわな」
後ろから、真央ちゃんの声。
そうなんだよ!
ヨウちゃんって、学校じゃオレサマきどって、クールなふりしているわりに、マジメ君。
宿題はかならずやってくるし。掃除も委員会もさぼらない。バスケのときはリーダーになるし、班行動するときは、たいてい班長。
だけど今朝、朝のホームルームで出席をとったとき、ヨウちゃんの家から休みの連絡が来てないのに、ヨウちゃんがいないもんだから、先生だってあわててた。
「中条君、どうしたの? ぐあい悪いの?」
「もう、二時間目はじまるぞ~。葉児、なんだよ、寝坊かよ~?」
あたしがたどりつく前に、すでに、ヨウちゃんのまわりは人の山。
人だかりをくぐりぬけて、リンちゃんのわきの下から前に出たら、ヨウちゃんの琥珀色の目と目が合った。
「ヨウちゃん、どうしたのっ!? なにかあったのっ!? 」
「……綾……」
ヨウちゃんの目に力がこもってない。いつもはさらさらストレートの髪も、きょうは耳横がへろへろと波打ってる。
「……いや、なんも。ただの寝坊」
「ホントにっ!? 」
ぎゅっと左腕をつかんだら、ヨウちゃんが「っ……」と顔をしかめた。
……え?
腕の力を抜いたら、もうヨウちゃん、しらっとした顔にもどってる。
痛かった……? あたし、そんなに力こめてたっけ……?
「なんだ、やっぱ、寝坊かよ~? 葉児、ダッセ~」
「うるさい、大岩! 中条君でも、寝坊くらいします! 人間だもの 」
「寝グセのついた中条君も、かわいくて新鮮~っ!! 」
男子も女子も、ギャアギャア。
その中でヨウちゃんは、ぼんやりとつっ立ってる。
ほっぺの筋肉に力を入れるのも、つかれるみたいな。
目の焦点も微妙にあってないし。
ちっとも、ヨウちゃんらしくない……。
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