
「……え?」
あたしののどを声が落ちていった。
ヨウちゃんのこめかみが青白い。自分の足元を見つめる目、震えてる。
「綾……オレ……」
ドンっとドア越しに音がした。
ヨウちゃんの肩が、ビクッととびはねる。
ドン、ドン。
書斎のドアが、外側からノックされている。と、思ったら、ドアの鍵が外側から開いた。
ギイ……。
中に人が入ってくる。
「こら、ヨージ! 書斎に鍵をかけるのはやめなさい。子どもが親に、隠しごとなんてするもんじゃない。ヨージがそんなに悪い子に育ってしまったなんて、とうさんはかなしいぞ」
琥珀色の髪に琥珀色の目。ヨウちゃんのお父さん。
顔つきはヨウちゃんにそっくりだけど、お父さんのほうが、彫が深い。あごもがっしり。
すらっと長い足に、筋肉ののった胸。お腹はひきしまっている。体型はヨウちゃんよりもガッチリ型で、身長はヨウちゃんより、十センチは高いかな。
本当に、ハリウッドの俳優さんみたい……。
「……なんの用だよ?」
ヨウちゃんは、あたしから背を向けて、あたしとお父さんの間に立ちはだかった。
「さっき、セイコからきいたんだけど、ヨージ、アヤちゃんのお母さんと、アヤちゃんといっしょに勉強会するって、約束したそうじゃないか!」
「……それがどうした?」
「なら、しっかり勉強しなさい。ただし、とびらはオープンでね。アヤちゃん、毎日でも来ていいんだからね? ヨージがよそごとをしないように、わたしが、ちゃんと、ここについていてあげるから」
「つまり……監視かよ」
ヨウちゃん、本当にどうしちゃったんだろう……?
にぎりしめた両こぶしが、小刻みに震えてる。
「おお、ヨージ! そんな、かなしい言い方しないでくれっ! とうさんはずっと、ヨージやセイコと暮らしたかったんだぞ。八年だ。八年もかかって、やっと、なつかしの我が家に帰ってこられたっ! 少しでも長い時を、ふたりといっしょにすごしたいんだよっ!! 」
「あ……あの……」
あたしは後ろから背のびして、ヨウちゃんの顔をのぞきこんだ。
「あたしは、べつに……お父さんといっしょでも、へいきだよ?」
「ダメだ」
ヨウちゃん、きっぱりと言いはなつ。
「綾。ワルイけど、きょうはもう帰って」
「え……?」
「こら、ヨージ! レディーに対して、しつれいではないかっ! 顔がちょっといいだけで、女の子がなんでも自分の思い通りに動くと思っているなら、それは大きなまちがいだ! 女の子にはやさしく。いたわりの気持ちを持って、接しなければ」
お父さんはそれからあたしに、ほほえんだ。
「アヤちゃん、おいで。わたしが勉強を見てあげよう。日本語はともかく、算数なら、わたしにでも教えてあげられるからね」
「……綾、やめろ」
「で……でも……」
ふんわり細めた琥珀色の瞳。笑いジワのある口元もやわらかくって。
ちっとも、悪そうな人に見えない……。
「お、お父さん、勉強教えてください」
あたしはヨウちゃんの後ろから、ぺこっと頭をさげた。
「おい、綾……」
「まかせなさいっ! それから、わたしのことは、『お父さん』じゃなくて、『リズ』って呼んでほしいな」
お父さんがあたしにウインクした。
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