《1》 はじめまして、お父さん5 - ナイショの妖精さん5
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《1》 はじめまして、お父さん5

  19, 2022 22:12
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「……え?」


 あたしののどを声が落ちていった。

 ヨウちゃんのこめかみが青白い。自分の足元を見つめる目、震えてる。


「綾……オレ……」


 ドンっとドア越しに音がした。

 ヨウちゃんの肩が、ビクッととびはねる。


 ドン、ドン。


 書斎のドアが、外側からノックされている。と、思ったら、ドアの鍵が外側から開いた。


 ギイ……。


 中に人が入ってくる。


「こら、ヨージ! 書斎に鍵をかけるのはやめなさい。子どもが親に、隠しごとなんてするもんじゃない。ヨージがそんなに悪い子に育ってしまったなんて、とうさんはかなしいぞ」


 琥珀色の髪に琥珀色の目。ヨウちゃんのお父さん。

 顔つきはヨウちゃんにそっくりだけど、お父さんのほうが、彫が深い。あごもがっしり。

 すらっと長い足に、筋肉ののった胸。お腹はひきしまっている。体型はヨウちゃんよりもガッチリ型で、身長はヨウちゃんより、十センチは高いかな。


 本当に、ハリウッドの俳優さんみたい……。


「……なんの用だよ?」


 ヨウちゃんは、あたしから背を向けて、あたしとお父さんの間に立ちはだかった。


「さっき、セイコからきいたんだけど、ヨージ、アヤちゃんのお母さんと、アヤちゃんといっしょに勉強会するって、約束したそうじゃないか!」


「……それがどうした?」


「なら、しっかり勉強しなさい。ただし、とびらはオープンでね。アヤちゃん、毎日でも来ていいんだからね? ヨージがよそごとをしないように、わたしが、ちゃんと、ここについていてあげるから」


「つまり……監視かよ」


 ヨウちゃん、本当にどうしちゃったんだろう……?


 にぎりしめた両こぶしが、小刻みに震えてる。


「おお、ヨージ! そんな、かなしい言い方しないでくれっ! とうさんはずっと、ヨージやセイコと暮らしたかったんだぞ。八年だ。八年もかかって、やっと、なつかしの我が家に帰ってこられたっ! 少しでも長い時を、ふたりといっしょにすごしたいんだよっ!! 」


「あ……あの……」


 あたしは後ろから背のびして、ヨウちゃんの顔をのぞきこんだ。


「あたしは、べつに……お父さんといっしょでも、へいきだよ?」


「ダメだ」


 ヨウちゃん、きっぱりと言いはなつ。


「綾。ワルイけど、きょうはもう帰って」


「え……?」


「こら、ヨージ! レディーに対して、しつれいではないかっ! 顔がちょっといいだけで、女の子がなんでも自分の思い通りに動くと思っているなら、それは大きなまちがいだ! 女の子にはやさしく。いたわりの気持ちを持って、接しなければ」


 お父さんはそれからあたしに、ほほえんだ。


「アヤちゃん、おいで。わたしが勉強を見てあげよう。日本語はともかく、算数なら、わたしにでも教えてあげられるからね」


「……綾、やめろ」


「で……でも……」


 ふんわり細めた琥珀色の瞳。笑いジワのある口元もやわらかくって。


 ちっとも、悪そうな人に見えない……。


「お、お父さん、勉強教えてください」


 あたしはヨウちゃんの後ろから、ぺこっと頭をさげた。


「おい、綾……」


「まかせなさいっ! それから、わたしのことは、『お父さん』じゃなくて、『リズ』って呼んでほしいな」


 お父さんがあたしにウインクした。





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