
丸い小さな葉。ネコ草みたいに細長い葉。低木。
高台のてっぺんにあるヨウちゃんちのお庭には、たくさんのハーブが植わってる。
冬越しできる葉は、小さく刈り込まれてひっそりしていて。できない葉は、枯れて根だけにもどって、春が来るのを待っている。
冬風が、三角屋根の風見鶏をゆらした。
ヨウちゃんちの庭の小路を通って、自宅カフェ「つむじ風」のプレートがさがったドアを開ける。薪ストーブのあたたかい空気に包まれた。
「リズ? おつかいごくろうさま。お金、足りた? あら、葉児もおかえりなさい。綾ちゃん、こんにちは」
薪の燃える香ばしいにおいと、ハーブの葉っぱのほのかな香り。
白いひらひらエプロンをつけた小柄な女の人が、お客さんの席の横に立っている。
あたしとあまりかわらないくらい若く見えるけど、たぶん三十代。ヨウちゃんのお母さん。ほっぺたにエクボをつくって笑ってる。
「おお、セイコ。ばっちりだよ。ほら、見てごらん。リンゴに、シュガーに、ミルクに、エッグ」
ヨウちゃんのお父さんは、慣れた足取りでカウンターに入っていった。手にさげていたレジ袋の中身を、カウンターの上に、ならべはじめる。
「ありがとう、ばっちりね。悪いけどぜんぶ、冷蔵庫に入れておいてくれる? ――お客さま、お待たせしました。こちら、ローズティーとパンケーキのセットになります」
ヨウちゃんのお母さんが、ティーカップをお客さんの前のテーブルにのせた。
そしたら、すぐにお客さんが、身をのりだしてきた。
「ねえねえ、中条さん。もしかして、あちら、中条さんの旦那様かしら?」
「すごい、ステキじゃない。どこの国の方なの?」
「ねぇ、ハリウッドの俳優さんみたい。はじめてお会いしたわ~」
向かいの席に座ったおばさんも、手前のおばさんふたりも。どう見てもうちのおばあちゃんと同じくらいの歳なんだけど。ほっぺたピンク色に染めて、女子高生みたい。
「まぁ、ありがとうございます~。主人は、イギリスの出身なんですよ。ずっと向こうに単身赴任してましてね。二日前に帰ってきたんです」
「……ヨウちゃん」
あたしは、ヨウちゃんのモッズコートのそでぐちを、くんと引いた。
ヨウちゃんは無言で、店の入り口から中を見ている。
眉をひそめて、きびしい顔つき。
「ねえ……ヨウちゃんのお父さんって……亡くなったはずじゃ……」
ぎゅっとこぶしに力を込めて、ヨウちゃんが歩き出した。
「綾、書斎に行くぞ。中で話す」
「う……うん」
足早に階段をおりる背中を追いかけて、あたしも地下におりていく。
ヨウちゃんの家は、つくりが少しかわってる。一階が自宅カフェ「つむじ風」のお店で、二階がヨウちゃんとお母さんの部屋。それから、地下に、ヨウちゃんのお父さんがつかっていた書斎がある。
地下って言っても、地面にうまっているわけじゃない。海に面した崖のとちゅうにへばりついているから、広い窓があって、海を見わたせる。
二週間前にいっぱいあった鳥かごは、物置にかたづけられていた。
だから今は、部屋はガラリとしていて、南から西まで広がる窓のカーテンも、ちゃんと開け放されている。
そびえる本だなと、その一角にならぶ虹色のビンをながめていたら、後ろでガチャンと音がした。
部屋に入ってきたヨウちゃんが、ドアに内側から鍵をかけている。
「……え?」
鍵をかけられたのなんて、はじめて。
だけどヨウちゃんは、無表情でスタスタと入ってきて、お父さんのつくえの下にランドセルをおろした。
「父親は、生きていたんだ。妖精たちに助けられて、ずっと地下で暮らしていた」
「えっ!? えっ!? そ、そうだったのっ!? それって、すごくよかったじゃん!」
「――って……かあさんには、話してる」
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