
あたしの頭のてっぺんには、くせっ毛が一束くるん。
これ、アホ毛。アニメとかマンガだと、アホっ子の頭にはえる毛に、認定されてる。
お約束どおり、あたしはアホっ子。
勉強も運動も苦手。歌うのも絵を描くのも、料理するのも苦手。
だけど、あたしにはカレシがいるんだもんねっ!
「ヨウちゃんっ!」
放課後。
あたしはランドセルをカタカタ言わせて、高台の住宅街につづく坂道をのぼっていた。
先行くグレーのランドセルは、遠くて遠くて、走っても走っても追いつかない。
「ヨウちゃんってば、どうしてきょうも先に、学校から帰っちゃうの~っ!? 」
坂のとちゅうから、両手をのばして、あたしは、ヨウちゃんの左腕にしがみついた。
それでやっと、琥珀色の髪がふり返る。
「綾……。ワルイ。今、ちょっと家がごたついてて、あんま、いっしょにいる余裕ない」
「え~っ!? あたし、きょうこそヨウちゃんちに寄りたかったのに~っ! だってヨウちゃん、おとといからそんなこと言ってるじゃん。あたしと勉強会するって、ママにした約束はどうなったのっ? あっという間に、キャンセルって、それヒドくない~?」
あたしに腕をつかまれても、ヨウちゃん、顔色ひとつかえない。おとなの男の人並みに高い身長。しゅっととがったあご。イギリス人と日本人のハーフの、鼻筋の通ったととのった顔立ち。
琥珀色の瞳が、冷たくあたしを見おろしている。
……あれ? あたし、これじゃあ、ただのウザイ、かまってちゃん?
あたし……ヨウちゃんのカノジョ……だよね?
「……ごめん。だよね……。だれにでも、いそがしいときはあるよね」
あたしはうつむいて、ヨウちゃんのモッズコートのそでから、手をはなした。
「……あたし、帰るね」
「あ、綾っ!? ちがう……」
ヨウちゃんの手がのびてくる。あたしのピンクのコートの腕をつかみかけて、だけど、手は宙をかいて、モッズコートのポケットの中にもどっていった。
「……そのうち、綾に言わなきゃならないことがある。けど、今はまだ、自分の中でも、うまく整理がついてない。ワルイけど、もうしばらく待って」
え……? な、なにそれ……?
「まさか……ヨウちゃん……あたしのほかに、好きな子ができたの……?」
「は、はぁ~っ!? 」
ヨウちゃんの声が裏返った。
「なんで、そうなるんだよっ!? 」
「だって……」
冷たい態度。「言わなきゃならないこと」ってきたら、やっぱり……。
「んなわけねぇだろっ! オレたち、あんなことあってから、まだ、たったの二週間だぞっ! そんなころころ、人の頭ん中がかわるかよっ!! オレはそんなに器用じゃないっ!! 」
ほっぺたを真っ赤に染めて、こぶしをかためるヨウちゃん。
あ、よかった。いつものヨウちゃんだ。
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