《2》 妖精のお医者さん 10 - ナイショの妖精さん1
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《2》 妖精のお医者さん 10

  08, 2018 22:05
20108092801



「……え? 中条が、なんでここに?」

「おまえの単細胞の頭なら、ここに来るだろうとは思ってたけど、バッチリ当たったな。学校が休みの日。昼間。晴れた日。ぜんぶ予想通りだ」


 だから、なんでそんなに、エラそうなのよ?


「フェアリー・ドクター」のことを教えてもらった日から、きょうまで数日。中条は、あいかわらず学校で、「なんにも知らない」って顔して、女子たちにかこまれてたくせに。

 むうって、にらんでるあたしを無視して、中条はジーンズのポケットから、小ビンを取り出した。
 コルクのキャップを開けて、ビンの中身を芝生の上に、サラサラと円状に撒いていく。


 すごい! 虹色の粉。

 日差しを受けて、チカチカとかがやいている。


「……なにそれ?」

「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー」

「ええ~っ !? あたしがつくったのと、ぜんぜんちがうっ!」

「はぁ? つくった?」

「つくったもん。百均でビャクダンとラベンダーのお香を買って。けずってちゃんと粉にした」

「……あのな。洗礼のために必要なのは、フェアリー・ドクターの魔力とかいうのが宿った、あやしい粉だ。ふつうの小学生が、市販の香をけずってつくれるようなもんじゃない。つかうのはこれ。何年物かナゾだけど、とうさんのたなの奥から発掘した」


 中条がビンをあたしの目の前にさしだす。ラベルには、スラスラと英語で、読めない字が書かれている。


「え~っ !! ズルイっ! そんなのあたしが手に入れられるわけないじゃん!」

「だから、おまえに持ってってやれって、かあさんにたのまれたんだよ。――で、ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーは、今、撒いた。たしかこれが、洗礼のための結界になるんだったよな」


「けっかい? って、戦うマンガでよくある、あの、透明な壁みたいなヤツ? 敵の攻撃を防ぐ……」

「おまえ、だれと戦う気だよ? これは現実社会と、自分を切りはなすための壁!」


 あ……そういえばそんなこと、たしか、ノートにも書いてあったような……。


「って、なんで中条が知ってんの? ノートはあたしが持ってるのに」


 きょとんときいただけなのに、中条のこめかみに、ピクピク血管がうきでた。


「おまえなっ!! おまえがノートを持ってったから、こっちは苦労して、原文訳したんだっ! 単語ひとつひとつ辞書で調べて、エライ苦労したんだからなっ!!  おかげでここ数日、平均睡眠時間、三時間だっ!」


 え……? ウソ……?


「だって……どうして? 中条は、妖精に関わる気なんかないって言ってたじゃん!」

「うるさい! ど~だって、いいだろっ!!  ほら、この中入れっ!」


 ぐいっと腕をつかまれて、ぺたんと座らされる。見たら、中条が撒いたパウダーの円の真ん中。


「で、えっと……たしか、あやしげな文句をとなえる。……『ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーよ。我々と、ダーナの末裔を同化したまえ』。そしたら、あおむけに寝ころがって。自分の中の自然を意識する」


 あ……ここまでは、あたしがやってたところ。


「そうして、結界が球状になって、自分のまわりを包み込んでいるのを感じる」


「球状。球状……」



 あたしが寝ころんだら、なんでか、となりに中条まで来て、寝そべった。




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