
「……え? 中条が、なんでここに?」
「おまえの単細胞の頭なら、ここに来るだろうとは思ってたけど、バッチリ当たったな。学校が休みの日。昼間。晴れた日。ぜんぶ予想通りだ」
だから、なんでそんなに、エラそうなのよ?
「フェアリー・ドクター」のことを教えてもらった日から、きょうまで数日。中条は、あいかわらず学校で、「なんにも知らない」って顔して、女子たちにかこまれてたくせに。
むうって、にらんでるあたしを無視して、中条はジーンズのポケットから、小ビンを取り出した。
コルクのキャップを開けて、ビンの中身を芝生の上に、サラサラと円状に撒いていく。
すごい! 虹色の粉。
日差しを受けて、チカチカとかがやいている。
「……なにそれ?」
「ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダー」
「ええ~っ !? あたしがつくったのと、ぜんぜんちがうっ!」
「はぁ? つくった?」
「つくったもん。百均でビャクダンとラベンダーのお香を買って。けずってちゃんと粉にした」
「……あのな。洗礼のために必要なのは、フェアリー・ドクターの魔力とかいうのが宿った、あやしい粉だ。ふつうの小学生が、市販の香をけずってつくれるようなもんじゃない。つかうのはこれ。何年物かナゾだけど、とうさんのたなの奥から発掘した」
中条がビンをあたしの目の前にさしだす。ラベルには、スラスラと英語で、読めない字が書かれている。
「え~っ !! ズルイっ! そんなのあたしが手に入れられるわけないじゃん!」
「だから、おまえに持ってってやれって、かあさんにたのまれたんだよ。――で、ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーは、今、撒いた。たしかこれが、洗礼のための結界になるんだったよな」
「けっかい? って、戦うマンガでよくある、あの、透明な壁みたいなヤツ? 敵の攻撃を防ぐ……」
「おまえ、だれと戦う気だよ? これは現実社会と、自分を切りはなすための壁!」
あ……そういえばそんなこと、たしか、ノートにも書いてあったような……。
「って、なんで中条が知ってんの? ノートはあたしが持ってるのに」
きょとんときいただけなのに、中条のこめかみに、ピクピク血管がうきでた。
「おまえなっ!! おまえがノートを持ってったから、こっちは苦労して、原文訳したんだっ! 単語ひとつひとつ辞書で調べて、エライ苦労したんだからなっ!! おかげでここ数日、平均睡眠時間、三時間だっ!」
え……? ウソ……?
「だって……どうして? 中条は、妖精に関わる気なんかないって言ってたじゃん!」
「うるさい! ど~だって、いいだろっ!! ほら、この中入れっ!」
ぐいっと腕をつかまれて、ぺたんと座らされる。見たら、中条が撒いたパウダーの円の真ん中。
「で、えっと……たしか、あやしげな文句をとなえる。……『ラベンダーとサンダルウッドのミックスパウダーよ。我々と、ダーナの末裔を同化したまえ』。そしたら、あおむけに寝ころがって。自分の中の自然を意識する」
あ……ここまでは、あたしがやってたところ。
「そうして、結界が球状になって、自分のまわりを包み込んでいるのを感じる」
「球状。球状……」
あたしが寝ころんだら、なんでか、となりに中条まで来て、寝そべった。
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