《6》 ヨウちゃんの気持ち・あたしの気持ち4 - ナイショの妖精さん4
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《6》 ヨウちゃんの気持ち・あたしの気持ち4

  05, 2022 22:11
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「……どうしたの?」


 あたしが首をかしげると、大きな手が、パッとあたしのほっぺたからはなれた。


「う、うあっ!!  あ、あ、綾のお母さんっ!」


「……え?」


 ヨウちゃんの視線の先は、坂の下。住宅街につづく道。

 うちのママが、お出かけバッグを持って、ファーつきのロングコートを着て。ギスギスにやせた化粧の濃いおばさんと立ち話ししていた。


「って、中村さんもいっしょなのっ!? 」


「こ、こ、こ、こ、こんにちはっ!」


 ヨウちゃん、なぜだか気をつけ。寒いはずなのに、こめかみや、あごから汗がダラダラ。


「こんにちは」


 あたしとヨウちゃんを交互に見てから、ママは眉をひそめた。


「綾、まさかこれからまた、葉児君ちにお邪魔するつもりじゃないでしょうね?」


「え……? えっと……」


 そんな会話、ヨウちゃんとしてない。


 でも……ホントはすごく……。


「あんた、なんだかんだ言って、数日前も、中条さんちにお邪魔したそうじゃない。雨にビチョビチョにぬれてふたりで帰ってきて、着がえまで借りてたんですって? 中村さんが見たって言うのよ。どうして、そこまでして……」


「あのっ! オレたち勉強会してるんですっ!!」


「……え?」


 ママが眉をひそめて、ヨウちゃんを見あげた。


「だからっ! 塾のない日は、綾さんがうちに来ること、許してくださいっ!」


 ヨウちゃん、ぎゅっと目を閉じて、ママに頭をさげてる。


「で、でもねぇ……。勉強会って言ったって……。どうせ、綾が一方的に葉児君から習うばっかりでしょ。その間、葉児君の勉強がストップしちゃうじゃない」


「だけど、ぎゃくに、綾さんから教わることもあるんです」


 ヨウちゃんが、ガバっと顔をあげた。


 ええっ!?  ヨウちゃんっ!?


「綾さんは、いざと言うときほど、たよりになるんですっ!」


 琥珀色の目、キラキラしていて、口元ニカって笑ってる。


「……そうなの?」


 ママは中村さんと顔を見合わせた。


「じゃあ、まぁ、ほどほどにね。中条さんのご迷惑にならないように。――さっきね、わたしも中村さんと、はじめて、中条さんとこでお茶させてもらったんだけど……いいカフェね」


「あ、ありがとうございますっ!」


 部活命の運動部員みたいに、また、ガバっと頭をさげるヨウちゃん。

 その横で、あたしは「う、うんっ!」と両こぶしをにぎりしめた。


「そうなの、ママっ! 自宅カフェ『つむじ風』はすっごく、すっごくいいお店なのっ!!  毎日でも通いたくなっちゃう場所なのっ!! 」






● ● ● ● ●







 真っ暗なこの場所で。




 だれも来ない、この場所で。



 あたしは、あのころを思い返してる。





 キラキラとかがやいてた、あのころ。


 手をのばせば、ヨウちゃんの手にとどいた、あのころ。











 ――そして



 あたしたちの地獄がはじまったんだ――



















――「ナイショの妖精さん 4」 完――




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