《5》 あたしという名の集合体15 - ナイショの妖精さん4
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《5》 あたしという名の集合体15

  23, 2021 19:35
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「や、やめろ……」


 ヨウちゃんが耳をふさいで、ちぢこまった。


「もう……やめてくれっ!! 」


「……ヨウちゃん……」


「自分のせい」って言われつづけた人間がどうなるか。

 あたし、知ってるっ!


「いいかげんにしてぇ~っ!! 」


 あたしはエルダーの枝をつきだして、モヤにとびかかっていった。

 頭のてっぺんから足の下まで、バッと大きく、枝をふりおろす。

 目の前の黒い影を、左肩から右わき腹まで、ぶった切る。


 人型をしたモヤが、バッと店内に散った。

 だけどすぐにまた、モヤが同じところにあつまりだす。


「あ、あつまるなぁっ! この、この、この~っ!! 」


 あたしはブンブン枝をふりまわす。


 老婆のしわがれたせせら笑い。


 どうしよう、どうしようっ!

 どうしていいのか、わかんないっ!!


「綾、火だっ!」


 ヨウちゃんがさけんだ。


「薪ストーブに……ひ、火をっ!」


 そ、そっかっ!


 こいつはもう、あたしの中に入ってないんだから、りんぷんをつかえない。

 だから、エルダーの火が効くんだっ!


 あたしはストーブにかけよって、横に置いてあるマッチをつかんだ。

 だけど、摺る手が震えて、力が入らない。


 それだけじゃなくて……。

 あたし……あたし……理科の実験とかすっごい苦手っ!


 マッチなんて一度も、うまく摺れたことがない。


 どうしよう……あたしなんか……やっぱり、役立たず……。


「綾っ! 後ろっ!! 」


 ヨウちゃんの声が裏返る。

 拍子に、あたしの指先はすっと動いて、マッチを摺っていた。


「わっ!? 」


 細い棒の先に、小さな小さな炎がともる。

 あたしはふり返りざまに、炎を、手に持ったエルダーの枝にうつした。


 目の前に、黒いモヤの人影がそびえている。


 大きい……。


 身長は、あたしの二倍くらいもある。手も足も太すぎて、焼けこげた丸太みたい。

 頭は天井についてもおさまりきらなくて、ななめっている。


「えいっ!」


 あたしはモヤの胴体に、炎のついたエルダーの枝をつっこんだ。



『ぎゃあああああっ!! 』


 老婆の悲鳴がつんざいた。

 あたしがつきやぶった胴を中心にして、黒いモヤに穴が開きはじめる。

 モヤが、散々に散っていく。


 その枝を、あたしは巻きストーブにつっこんだ。


「エルダーの枝さん、こいつを……このバケモノを退治してぇ~っ!! 」


 ぼっと、ストーブに炎がともる。

 鼻につく木の焼けるにおいが、店内に立ち込める。


『ああああああああああっ!! 』


 声だけをのこして、モヤが消えていく。

 店内の空気に溶けていく。


 店の壁にかかった丸い鏡に、こぶしほどのモヤがすがりついた。


 そのままモヤは、鏡の中に吸い込まれるようにして、消えた。





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