
『おもしろい。チャンバラごっこしようじゃないか!』
モヤの口あたりから、老婆の声がせせら笑った。
「なんでっ!? 」
お腹の底に力を入れて、あたしはさけんだ。
「あんた、なんで、そんなに、ヨウちゃんをいじめるのっ!? ヨウちゃんは、なんにも悪いことしてないじゃないっ!」
『「悪いこと」?』
真っ黒いモヤの目のあたりから、ぎょろりと視線があたしを見おろした。
『それなら、今もしただろう……?
今、わたしは、人間の体を持った、白い妖精の体を手に入れられるところだった。
だが、こいつのせいで、わたしは外に追い出された……』
「だ、だけど、それは……あんたが、あたしをのっとったりしたから……」
『のっとりたくて、のっとったわけではないっ!
わたしとて、自分の体がほしかった。
自分の中身をおさめる、器がほしかったっ!
だが、わたしが孵化する前に、こいつは、わたしのタマゴを割った!
そのせいで、わたしは完全体として、産まれ出ることができなかった!
わたしが体を必要とするようになったのは、こいつのせいではないかっ!! 』
「じゃ、じゃあなんでっ! あんたは、タマゴのときに、ヨウちゃんを襲ったりしたのよっ!! 」
あたしの金切り声が、店内にひびいた。
知らなかった。あたしにこんな声が出せること。
「あ……綾……」
ヨウちゃんが、あたしの後ろでつぶやく。
「やめろ……挑発するな……」
だけど、あたしは首を横にふった。
ものすごい怒りが、お腹の底からわきあがってくる。
「ヨウちゃんが、あんたのタマゴを壊したのは、あんたがヨウちゃんに嫌がらせしたからでしょっ!! あんたが黒くなったのは、ヨウちゃんのお父さんのせいなのにっ! なのに、あんたは、ヨウちゃんのせいにすりかえて、ヨウちゃんをいじめたっ!! 」
『ひひひひひひひひひ……』
店内に笑い声がひびいた。
『わたしが黒くなったのは、こいつの父親のせい……?
ひひひひひひひひひ……。
それこそ、責任のすりかえだ』
「な、なんでっ!? 」
こいつ、イヤだ!
こいつとしゃべってると、頭の中がもちゃがってくる。
「タマゴを黒くしたのは、ヨウちゃんのお父さんじゃない。お父さんがヒメからタマゴを取りあげたから……。それで、ヒメは悲しくなって、悲しい気持ちと、お父さんを恨む気持ちを、タマゴに込めちゃったんだっ! そのせいでタマゴは黒くなっちゃった。ヨウちゃんには、ぜんぜん関係ないよっ!」
『そのタマゴを、父親は、どうして妖精から取りあげたんだと思う?』
「……え?」
『四歳のこいつが、自分の口で、父親に言ったんだ。
『妖精のタマゴがほしい』と。
父親は、こいつの願いを叶えるために、タマゴを妖精の手から取りあげた。
そのせいでタマゴは、闇に落ちた。
わたしは……黒く染まった……』
……なにそれ……。
そんなの……あたし、きいてない。
「だ、だけどっ! それは、小さい子どもの言葉でしょっ! 小さなヨウちゃんは、きっとなんにも知らなかったんだよ! ただ、『おもしろいから、ほしい!』って思っただけなんだよ!」
『子どもなら、なんでも許されると思うのかっ!?
そのせいで、犠牲になった者がいるというのに!
こいつのせいだっ!!
わたしが黒くなったのも、わたしが体を失ったのもっ!!
こいつの父親が死んだのもっ!!
こいつのせいだ。こいつのせいだ。こいつのせいだっ!! 』
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