《5》 あたしという名の集合体14 - ナイショの妖精さん4
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《5》 あたしという名の集合体14

  20, 2021 22:09
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『おもしろい。チャンバラごっこしようじゃないか!』


 モヤの口あたりから、老婆の声がせせら笑った。


「なんでっ!? 」


 お腹の底に力を入れて、あたしはさけんだ。


「あんた、なんで、そんなに、ヨウちゃんをいじめるのっ!?  ヨウちゃんは、なんにも悪いことしてないじゃないっ!」


『「悪いこと」?』


 真っ黒いモヤの目のあたりから、ぎょろりと視線があたしを見おろした。


『それなら、今もしただろう……?

今、わたしは、人間の体を持った、白い妖精の体を手に入れられるところだった。
だが、こいつのせいで、わたしは外に追い出された……』


「だ、だけど、それは……あんたが、あたしをのっとったりしたから……」


『のっとりたくて、のっとったわけではないっ!

 わたしとて、自分の体がほしかった。
 自分の中身をおさめる、器がほしかったっ!

 だが、わたしが孵化する前に、こいつは、わたしのタマゴを割った!
 そのせいで、わたしは完全体として、産まれ出ることができなかった!
 わたしが体を必要とするようになったのは、こいつのせいではないかっ!! 』


「じゃ、じゃあなんでっ! あんたは、タマゴのときに、ヨウちゃんを襲ったりしたのよっ!! 」


 あたしの金切り声が、店内にひびいた。

 知らなかった。あたしにこんな声が出せること。


「あ……綾……」


 ヨウちゃんが、あたしの後ろでつぶやく。


「やめろ……挑発するな……」


 だけど、あたしは首を横にふった。

 ものすごい怒りが、お腹の底からわきあがってくる。


「ヨウちゃんが、あんたのタマゴを壊したのは、あんたがヨウちゃんに嫌がらせしたからでしょっ!!  あんたが黒くなったのは、ヨウちゃんのお父さんのせいなのにっ! なのに、あんたは、ヨウちゃんのせいにすりかえて、ヨウちゃんをいじめたっ!! 」


『ひひひひひひひひひ……』


 店内に笑い声がひびいた。


『わたしが黒くなったのは、こいつの父親のせい……?

 ひひひひひひひひひ……。

 それこそ、責任のすりかえだ』


「な、なんでっ!? 」


 こいつ、イヤだ!

 こいつとしゃべってると、頭の中がもちゃがってくる。


「タマゴを黒くしたのは、ヨウちゃんのお父さんじゃない。お父さんがヒメからタマゴを取りあげたから……。それで、ヒメは悲しくなって、悲しい気持ちと、お父さんを恨む気持ちを、タマゴに込めちゃったんだっ! そのせいでタマゴは黒くなっちゃった。ヨウちゃんには、ぜんぜん関係ないよっ!」


『そのタマゴを、父親は、どうして妖精から取りあげたんだと思う?』


「……え?」


『四歳のこいつが、自分の口で、父親に言ったんだ。

『妖精のタマゴがほしい』と。

父親は、こいつの願いを叶えるために、タマゴを妖精の手から取りあげた。
そのせいでタマゴは、闇に落ちた。
わたしは……黒く染まった……』

 
 ……なにそれ……。


 そんなの……あたし、きいてない。


「だ、だけどっ! それは、小さい子どもの言葉でしょっ! 小さなヨウちゃんは、きっとなんにも知らなかったんだよ! ただ、『おもしろいから、ほしい!』って思っただけなんだよ!」


『子どもなら、なんでも許されると思うのかっ!?
 そのせいで、犠牲になった者がいるというのに!

 こいつのせいだっ!!  

 わたしが黒くなったのも、わたしが体を失ったのもっ!!

 こいつの父親が死んだのもっ!!

 こいつのせいだ。こいつのせいだ。こいつのせいだっ!! 』





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