
「よ、ヨウちゃんっ!」
琥珀色の髪の毛が動かない。
肩も、腕も、枯れ木みたいに動かない。
「ヨウちゃん、ご、ごめん! ごめんねっ!! あたしのせいでっ!! あたしが……あたしがヨウちゃんを、こんな目に……」
目から涙があふれてとまらない。かけ寄って、泣いてすがっても、ヨウちゃんは、あたしの胸に、だらりと頭をあずけたまま、目も開けない。
「待ってて! すぐに治してあげるからっ!! 」
こぶしでごしごし目をこすって、あたしは自分の体から力を抜いた。
ふわっと、チョウチョの羽が、背中でゆれる。
チカチカと銀色のりんぷんが、火の粉のように、ヨウちゃんの体にふりそそいでいく。
「……あや……?」
ヨウちゃんがぼんやりと目を開けた。
「ヨウちゃん? ヨウちゃん、気がついたっ!? 」
のぞきこむあたしを見あげて、ヨウちゃんが息を飲んだ。
「ば、バカっ! やめろっ!」
ヨウちゃんがはねおきる。
「おまえ、りんぷんはつかうなって、あんだけ……っ!」
そのままくらっと体をゆらして、ヨウちゃんはまた、あたしの腕に倒れ込んだ。
「やめろ……りんぷんをつかいきったら、妖精は消滅する……っ! 人間の綾まで……いっしょに……消える……」
「……いいよ……。あたしなんか消えちゃったって……」
あたしのほおを、冷たい涙が伝った。
「ヨウちゃんを傷つけるあたしなんか……この世から消えてなくなればいい……」
「ち、ちがうだろっ!! 」
あたしの肩を、硬い両腕が、ガシッと受けとめた。
……ヨウちゃん……。
ぜえぜえ、荒い息をついて。目の焦点はぼんやりゆれて、さだまらない。
なのに、震える手が、あたしの肩に力を込める。
「綾は、いていいんだ。ここにいなきゃダメなんだっ!! オレ、前、おまえに『協力して』って言ったろ? なんにもしなくてもいい。どんな姿だっていい。ここに綾が存在してるってことが、オレにとっては『協力』なんだよっ!! 」
あたしは……いていい……。
いなくちゃ、ダメ……。
『それは、よいことをきいた』
店内の天井に老婆の声がこだました。
「な、なあにっ!? 」
あたしは、ぎゅっとヨウちゃんの肩を抱きしめる。
『ならば、この小娘をつかって、きさまをとことん追いこんでやろう……』
ぞぞぞ……。
足元で、モヤが動いた。
さっきまで、黒い水たまりのように、ゆかにたまっていたモヤ。
あたしの体の中に巣づくっていたモヤが、もぞもぞと動きながら、ゆかの上に立ちあがってくる。
肩が横にとびだし、引っ込み。足が外側に折れ曲がり、内側に折れ曲がり。モヤはもぞもぞと、人の形になっていく。
「こいつが……黒いタマゴの中身……」
ヨウちゃんが上半身を起こそうとしている。だけど、腕をゆかについても、震えてしまって、また倒れ込んでしまう。
「よ、ヨウちゃんは休んでてっ!」
「けど……」
「あたしがなんとかするっ!」
あたしは、ゆかに落ちていた、エルダーの枝を拾いあげた。
まっすぐのびる剣みたい。あたしの腕くらいに長くって、小枝はちゃんとはらってある。
あたしは肩甲骨に力を入れて、羽を背中に引っ込めた。
枝でゆかをついて、自分の足で自分の体重をささえて、あたしは真っ黒いモヤ人間と向かい合う。

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