
ヨウちゃんが、ストーブのとびらを開いて、さらに枝を火につっこんだ。
ボッと勢いよく、火が燃えあがる。
「やめろぉおおおおおおっ!! 」
黒い蛇が、ふたたび、あたしの指の先からあらわれた。ヨウちゃんに向かっていって、腕や胸をしめあげる。
ヨウちゃんっ!
だけどすぐに、蛇の胴は、ブチブチと切れはじめた。
輪切り状態になった蛇の胴は、ゆかに落ちる直前に、霧となって、部屋に散っていく。
「き……きさま……」
あたしの体が、ゆかの上にひざまずく。切れても切れても、指先から新しい蛇を出して、ヨウちゃんに向かわせる。だけどすぐに、蛇はまた、ブチブチ切れて、霧にかわる。
「ゆるせ……ない……」
あたしの肩からすっと力が抜けた。目の奥に意識が集中する。
あ……ダメっ!
さけびたいのに、声が出ない。とめたいのに、自分の体がとまらない。
ヨウちゃん、ヨウちゃんっ!!
早く、気づいてっ!
ヨウちゃんが、ハッと目を見開いた。
あたしの背中に、銀色のアゲハチョウの羽ができていく。
しぼんでいた羽が、ふわっとふくらみ、ヨットの帆のように、ピンと大きく張られる。
「くくくくく」
あたしの口が片方だけ持ちあがって、歯ぐきがのぞいた。
羽をはばたかせるたびに、銀色のりんぷんが、キラキラとかがやきながら、真っ黒に染まったあたしを包む。
店内の空気が冷え込んだ。
鼻につく、木のにおいが消えている。
ストーブから、炎が消えていた。
くべたエルダーの枝の虹色が消え、ただの茶色にもどっている。銀色のりんぷんがチリのように積もる。
「なるほど。さすがは妖精のりんぷんだ。フェアリー・ドクターの薬を無効化した……」
「くそっ! つけ! 火、つけっ!! 」
ヨウちゃんは、枝を両手ににぎって、薪ストーブに新たにつっこむ。だけど、どんなに足しても、マッチの火を枝に近づけても、枝に燃えうつる前に火は消えてしまう。
左手首に違和感が走った。
あたしの目がぎょろっと動いて、自分の手首を見おろす。
左手首に、腕輪のように、肌色のラインが入っている。そのラインが、真っ黒いまわりの肌に溶け込むようにして消えていく。
モヤの出口が消えちゃう……。
「ふふふふ。これでわたしは、小娘の中にとどまれる……」
「消えるなっ!」
ヨウちゃんがさけんだ。
わっと思ったときには、左腕を、ヨウちゃんにつかまれていた。
ヨウちゃんが、あたしの左手首に口をつけている。消えかけていた肌色のラインから、こぼれだしていた、どろっと黒いモヤに吸いつく。
「な……何をするっ!! 」
あたしが老婆の声で悲鳴をあげた。
ヨウちゃんは、顔をあげると、口にふくませていたモヤを、バッとゆかの上にはきだした。
黒いモヤが、どろっとゆかにたちこめる。
「蜂にさされたときに、毒を抜く対処法だよっ! 毒を吸引して、体内から出す。フェアリー・ドクターの薬がつかえないなら、自力でやってやるっ!! おまえを綾の中から引きずり出すっ!! 」
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