《5》 あたしという名の集合体11 - ナイショの妖精さん4
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《5》 あたしという名の集合体11

  13, 2021 20:30
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 ヨウちゃんが、ストーブのとびらを開いて、さらに枝を火につっこんだ。

 ボッと勢いよく、火が燃えあがる。


「やめろぉおおおおおおっ!! 」


 黒い蛇が、ふたたび、あたしの指の先からあらわれた。ヨウちゃんに向かっていって、腕や胸をしめあげる。


 ヨウちゃんっ!


 だけどすぐに、蛇の胴は、ブチブチと切れはじめた。

 輪切り状態になった蛇の胴は、ゆかに落ちる直前に、霧となって、部屋に散っていく。


「き……きさま……」


 あたしの体が、ゆかの上にひざまずく。切れても切れても、指先から新しい蛇を出して、ヨウちゃんに向かわせる。だけどすぐに、蛇はまた、ブチブチ切れて、霧にかわる。


「ゆるせ……ない……」


 あたしの肩からすっと力が抜けた。目の奥に意識が集中する。


 あ……ダメっ!


 さけびたいのに、声が出ない。とめたいのに、自分の体がとまらない。


 ヨウちゃん、ヨウちゃんっ!!

 早く、気づいてっ!



 ヨウちゃんが、ハッと目を見開いた。

 あたしの背中に、銀色のアゲハチョウの羽ができていく。

 しぼんでいた羽が、ふわっとふくらみ、ヨットの帆のように、ピンと大きく張られる。


「くくくくく」


 あたしの口が片方だけ持ちあがって、歯ぐきがのぞいた。

 羽をはばたかせるたびに、銀色のりんぷんが、キラキラとかがやきながら、真っ黒に染まったあたしを包む。


 店内の空気が冷え込んだ。

 鼻につく、木のにおいが消えている。


 ストーブから、炎が消えていた。

 くべたエルダーの枝の虹色が消え、ただの茶色にもどっている。銀色のりんぷんがチリのように積もる。


「なるほど。さすがは妖精のりんぷんだ。フェアリー・ドクターの薬を無効化した……」


「くそっ! つけ! 火、つけっ!! 」


 ヨウちゃんは、枝を両手ににぎって、薪ストーブに新たにつっこむ。だけど、どんなに足しても、マッチの火を枝に近づけても、枝に燃えうつる前に火は消えてしまう。

 左手首に違和感が走った。

 あたしの目がぎょろっと動いて、自分の手首を見おろす。

 左手首に、腕輪のように、肌色のラインが入っている。そのラインが、真っ黒いまわりの肌に溶け込むようにして消えていく。


 モヤの出口が消えちゃう……。


「ふふふふ。これでわたしは、小娘の中にとどまれる……」



「消えるなっ!」


 ヨウちゃんがさけんだ。

 わっと思ったときには、左腕を、ヨウちゃんにつかまれていた。

 ヨウちゃんが、あたしの左手首に口をつけている。消えかけていた肌色のラインから、こぼれだしていた、どろっと黒いモヤに吸いつく。


「な……何をするっ!! 」


 あたしが老婆の声で悲鳴をあげた。

 ヨウちゃんは、顔をあげると、口にふくませていたモヤを、バッとゆかの上にはきだした。

 黒いモヤが、どろっとゆかにたちこめる。


「蜂にさされたときに、毒を抜く対処法だよっ! 毒を吸引して、体内から出す。フェアリー・ドクターの薬がつかえないなら、自力でやってやるっ!!  おまえを綾の中から引きずり出すっ!! 」





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