
一階にあがると、まぶしい光に包まれた。
自宅カフェ「つむじ風」の窓は、いつのまにか雨戸で閉め切られ、玄関のドアには、鍵がかけられている。
「お店は臨時休業にしたわ。この枝を、ストーブにくべればいいのね?」
ヨウちゃんのお母さんが、ストーブの横につみあげられた小枝を、ストーブの火につっこんだ。
切り口から、ドロッと赤黒い樹液が流れている。樹液は、火の熱でぶくぶくと泡立ち、つんとした木のにおいが立ちのぼってくる。
「こ、これは……エルダーっ! きさま、そういうことかぁっ!!」
あたしの口から、老婆の声がとどろいた。
お母さんがハッと目を見開いて、自分の口を手でおおう。
「……綾ちゃん……どうして……?」
「かあさん、ありがとう。あとは、オレがひとりでやれる! かあさんは、店の外に出て、すぐにドアを閉めてっ!」
「で、でも……あぶないわ……」
「へいきだ。オレにだってもう、少しくらいはとうさんの知識がある。かあさん、オレを信じて」
お母さんは、目を赤く染めて、ヨウちゃんを見つめた。
琥珀色の目はゆるがない。お母さんよりも高い視線から、まっすぐにお母さんを見おろしている。
「……ヨウちゃん。――ううん。もう、親が息子を、ちゃんづけなんかで呼んじゃダメね。葉児、しっかり、綾ちゃんを救うのよ」
ヨウちゃんは、視線をそらさずにうなずいた。
むっと、濃い木のにおいが、店内に充満していく。
「エルダーの枝よ、綾の中にいるモノの真の姿を、オレの前にあぶりだせっ!」
パアッと、枝全体が、虹色の光に包まれた。
「やめろぉおおおおおっ!! 」
あたしののどから、つきあげてくる老婆の雄たけび。
ぶわっと、左右の指先から、黒い蛇がとびだした。
蛇は、ストーブ目がけて、突進していく。だけど、強いにおいの中、目がくらんだかのように、ぐるぐると身をよじった。目的を失い、四方八方に飛び散る。
パリンっ!
蛇の腹にぶつかって、陶器の花びんが割れた。
バリン、バリン、バリンっ!
カウンターにならんでいたグラスが倒されて、ゆかに落ちていく。
「かあさん、早く外にっ!」
ヨウちゃんの声にハッとなって、お母さんがドアからとびだす。バタンとドアが閉まる。
閉まったドアに、バン、バン、バンっと、黒い蛇がぶちあたった。
蛇は、胴をぶつけ、そのままゆかに落ちていく。
「……くそっ……」
あたしの口から、荒い息がもれた。
左手首に、ミミズが這ったような感触が走る。
うわぁああっ!!
あたしの左手が、右手首をおさえた。その手のすき間から、ドロッとした黒いモヤがこぼれ落ちてくる。
「き……きさま……ガキのぶんざいで……このわたしを……小娘の中から、追い出す気か……?」
なにこれ……? 気持ち悪い……。
モヤがゆっくりと、あたしの体の内側を移動していく。
左手の甲の出口に向かって……。
「エルダーの枝を火にくべると、魔術をかえてくる相手をあぶりだすことができる。なるほど。それが、おまえの本体か?」
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