
雨音が窓をたたいている。
あたしは、ぼんやりとまぶたを持ちあげた。
格子状の窓。黒いカーテンを一箇所だけ開けた、うす暗い書斎。
ただでさえ暗いのに、あたしの視界は、黒いモヤでおおわれていて、なにがどこにあるのか、ぜんぜんわからない。
かろうじて見える視界の中心に、ブロンズの檻がにぶく光っていた。
鳥かご。鳥かご。鳥かご。
書斎の中は、鳥かごだらけ。
その中には、黒い小枝のようなモノが捕らえられていて、銀色の羽をばたつかせている。
「あ……あたしの……足……」
あたしはふらふらと、ひとつの鳥かごに近寄っていった。
右手を天にさしあげ、天井からぶらさがっている鳥かごをぐいっと、つかむ。
ガタンと、鳥かごがゆかに落ちた。
止めネジがはずれて、かごの入り口が壊れる。
「あたしの……足……」
あたしは、かごの中に手をつっこんだ。
黒い妖精の胴を、横からわしづかみにして、かごから引き出す。
「チチチチッチチチチ」
黒い妖精が体をゆすってもがいた。
もがけばもがくほど、きつくにぎりこんでやる。
苦しげに身をよじって、妖精はもがく力を失っていく。
おもしろい。
反抗する者が、反抗しきれずに、あたしの力にひれ伏していく。
おもしろい。
あたしは、妖精の肩に吸いついた。
甘いアケビの蜜を吸うように、ずずずと黒いモヤをのどの中に吸収する。
モヤがどくどくと、あたしの胃を満たしていく。
妖精の皮膚から、下の肌色があらわれた。
色白の手足。ウエーブがかかった長い金髪。
くたりと横たわった妖精は、真っ白いロングドレスを身につけている。
……ヒメ……。
「これ……もう、いらない」
あたしは、ヒメの体を、ぽいっとゆかに投げ捨てた。
「もっと……もっと、ほかのがほしい……」
うめくような、あたしの声。しわがれた老婆の声。
「あたしの……左足……」
つめを立てて、ゆかに置かれた鳥かごをこじ開ける。中の妖精をわしづかみにする。
「あたしの首……あたしの目……あたしの耳……」
次々に鳥かごを開け、左右の手に、妖精をつかんでは、食らいつく。
ずずず……。
ずずず……。
あたしのくちびるからあふれだすのは、吸いきれなかった黒いモヤ。足元に、残骸のように散らばるのは、吸いつくされて白くもどった妖精たち。
ガタン。
音がした。
あたしがむさぼるのとは、ちがう音。
ドアのところから、だれかの足音が近づいてくる。
大またで、こっちに歩いてきたかと思うと、目の前に立ちはだかり、右手首を、ぐっとつかみあげられた。
一枚だけ開いたカーテンから、外のにぶい光がもれている。その光が、石膏のようにかたまった、白いほおをうつしだす。
「あ……あ……綾っ!? お、お、お、おまえ、な、な、な、なにやってんだっ 」
……ヨウちゃん。
あたしの手首をつかむ、大きな手、震えてる。
だけど、あたしの口は、雷鳴のようにさけんでいた。
「……きさま……あのときのクソガキか……っ!? 」
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