《5》 あたしという名の集合体6 - ナイショの妖精さん4
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《5》 あたしという名の集合体6

  02, 2021 21:26
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「そうなんですよ~。うちの息子に、早くから、こんなにカワイイお嫁さんが来てくれたみたいでね~。わたしもうれしくってねぇ~」


 ヨウちゃんのお母さんが、レジを打ちながら、ぽっくりエクボをつくって笑ってる。


「まあ、最近の子は、早いのね~。小学生のうちから、カレシとかカノジョとか。今の流行なのかもしれないけど、でもねぇ。あんまり早すぎて、まちがいがあったらって思ったら、ちょっと怖いわよね~」


 中村さんがふふふって、自分のほっぺたに手を置く。


 まちがい……?

 あたしたち、まちがいなんかじゃ……。


「そうね。そこは、親のちゃんとした教育かしら? あとは、自分の息子たちを信用しないといけないところね」


 ヨウちゃんのお母さんは、中村さんにお釣りをわたして、「ありがとうございました~」と、頭をさげた。


「雨足が強まってきてますから、足元にお気をつけて」


 お母さん……そんなに頭をさげたら、あたしよりちょっとだけ高い背が、あたしより小さく見えちゃうよ……。


 パタタ……。

 地下につづく階段で、黒い妖精の影がゆれた。


「あっ! チチっ!! 」


 チチを追って、あたしはまた、走り出す。

 電気を消したうす暗い地下の廊下に、書斎のドアが重苦しくそびえていた。

 古めかしい銅製の丸いドアノブ。影のように妖精が腰かけている。


「……開けろって……言ってるの……?」


 あたしがドアノブに手をのばすと、真っ黒のチチはするりと身をかわして、飛びあがった。


 暗い……。


 開けた書斎の中は、黒いカーテンで閉めきられている。

 窓の外のうすぼやけた雨空さえ、ぴっちりと隠してしまっている。


 そういえば、書斎は今、立ち入り禁止だって……。


「チチ……? どこにいるの……?」


 そろそろと一歩。

 あたしは、部屋に踏み込んだ。

 二歩。三歩。

 暗いトンネルにもぐっていくみたい。


 ううん、もしかしたらここは、黒いモヤのお腹の底……?


 まわりに黒しか見えなくなったら、さっきの中村さんの顔が、頭に浮かんできた。

 笑いかける派手なピンクの口紅。なのに青いアイシャドウを塗った目元は、ちっとも笑っていなかった。


「どうしよう……。また、中村さんに見られちゃった……。また……ママに告げ口されちゃう。もう二度と、ヨウちゃんちに来るなって言われちゃう……」


 あたしは、両手で顔をおおって、しゃがみこんだ。


「……あたしのせいだ……。あたしのせいで、ヨウちゃんのお母さんまで……中村さんに嫌味言われちゃった……。あたしが……あたしが、いけないからっ! あたしが、こんなにしょっちゅう、ヨウちゃんちにおしかけるから……」


 じわじわと、お腹のアザが広がっていくのを感じる。


 さっき治しきれなかった、黒いアザ。

 黒いモヤが体の中で蛇のようにうごめいて、胸に首に、手に足に広がっていく……。

 脳みそまで、モヤでおおわれていく。


「あたしなんか……消えちゃえばいいのに……」





『そうだ……おまえなど……消えてしまえ』



 しわがれた声が、耳元でつぶやいた。





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