
ヨウちゃんの右の小指の先が、ピクっと動いた。
トレーナーから手をはなして、あたしはうつむいた。
「いつも助けてくれて、ありがと。――って、言いたかったの」
う……なにこれ……。
今さら、ドドドドって心臓の音すごくなる。
そろっと上目でうかがったら、ヨウちゃんは、時がとまったみたいにかたまってた。
目、丸いまんま。半分ふり返った姿勢のままで、ぼうぜん。
う、うわ……どうしよ……。
もしかして、まちがっちゃったっ!?
あたし、理科室で「あたしがキスしたいのはヨウちゃんだけ」って絶叫しちゃったけど。
でも、考えてみれば、ヨウちゃんがだれとキスしたいかなんて、きいてない。
やっぱり、こんなお子ちゃまとなんかじゃ……イヤだよね……。
涙があふれそうになって、ひざに置いたこぶしに力を込めたら、右肩がふっとあったかくなった。
……え?
ヨウちゃんの左手が、あたしの肩にのっている。
ギ……と勉強づくえのきしむ音がした。
つくえの上に右手をついて、ヨウちゃんが体重をかける。
見あげたら、石膏みたいに白いほお。鼻筋の通ったキレイな顔立ち。
え……近い。

イスに座ったあたしと向かい合って、おおいかぶさるようにして。
ヨウちゃんは目を閉じて、くちびるで、あたしのくちびるにそっとふれた。
あったかい。
冷たいヨウちゃんのくちびるから、こぼれた吐息があったかい。
……ヨウちゃん……。
きゅうっと、胸をしめつけられた。
目を開けたら、琥珀色の瞳にあたしの顔がうつりこんでいた。
目のふち赤くて、熱くって、熱がどんどんあふれだしてくる。
ほほえんでるのに、泣いてるみたい。
ふわっと、アホ毛ごと、あたしの頭に手を置いて。
それから手をはなして、ヨウちゃんは部屋から出て行った。

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