《5》 あたしという名の集合体1 - ナイショの妖精さん4
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《5》 あたしという名の集合体1

  21, 2021 21:44
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 ポツポツ、雨がカサにあたる音。


「――オレさ、綾が休みの間、ひとりで浅山に行ったんだ……」


 コートの上から、ヨウちゃんの声が、ぼそぼそときこえてくる。


「オークとホーソンとアッシュの香を焚いて、黒い妖精たちを呼んだ。で、寄ってきた妖精たちを、網でかたっぱしから捕まえた。けど、一匹だけ、逃がしたヤツがいる。たぶん、そいつが、倉橋にとり憑いてた、あいつだ……」


 あったかいヨウちゃんのコート。ヨウちゃんのにおい。肩にまわされた腕の強さと、あたしを雨から守るために、ヨウちゃんがさしかけてくれるビニールガサ。


「とり逃がしたのは、おしかったな。あと一匹だけなんだけどな……」


 なのに、どうして、あたしの頭の中は、ドロドロのモヤで渦巻いているんだろう。


「あたしのせいだよ……あたしがぼんやりしてたから……また、ヨウちゃん、黒い妖精を捕らえそこねちゃったんだ……」


 あんまり頭は働いていないのに、口から言葉だけは、ぽろぽろとこぼれてくる。


「いや、綾がぼんやりとかは、まったく関係ないだろ。ともかく、オレは今回ので確信した。やっぱり黒い妖精は、人間にとり憑いて、負の感情を植えつける。しかもそれをつかって、他人を攻撃してくる。

むずかしいのが、それが黒いタマゴの意志なのか、ただ黒いタマゴの影響であって、タマゴ自体とは無関係なのか、わからないってとこだ……」


「なんであたしなんか……この世に存在するんだろ……」


「おい、綾。さっきからずっと、それ、なんなんだ」


 ヨウちゃんの声がするどくなる。


「わけわかんないことばっか、言うな」


「なんで……? だって、そうでしょ? あたしなんかいなくなればいいんだよ……。リンちゃんだって、言ってたでしょ? みんながつらい気持ちになるのは……ぜんぶあたしが悪いんだから……」


「なに言ってんだ? なんなんだこれ? 黒くなってるせいなのか? アザが出ると、綾の思考回路がおかしくなる……」


「おかしくなんかないよ。ヨウちゃん……あたしね、今、すごく悪いことしてるの。ママに、人前ではヨウちゃんとくっつくなって言われてるのに、ヨウちゃんとくっついて歩いてる。あたしね、すごく悪い子なの。……あたしなんか……消えてなくなればいい……」


「アホ、言うなっ! 今は、緊急事態だろっ!?  だいたい、おまえ、そんなふらふらで、ひとりで家に帰れるのかっ!?  マロウの薬は? まだ家に、ちゃんとあるんだろな?」


「もうぜんぶ……つかっちゃったよ……」


「……ぜんぶ……?」


 ぐっと、ヨウちゃんの手が、あたしの肩に力を込めた。


「なら、オレんちに来いっ! のこり半分、とってあるっ!! 」


「え……?」


「綾の親には、あとでオレからあやまってやるからっ!」


「や、ヤダっ!」


 あたしは、バッとヨウちゃんの胸を、自分からつきはなした。


「羽切られたらイヤだから、行かないっ!」


 衝撃で、ヨウちゃんのコートが、アスファルトに落ちる。


 耳元で、ザアアと大きくなる雨音。

 肩や髪が、雨でぬれていく。





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