
「中条君のヘンタイっ! 和泉さんだけじゃあきたらず、リンにまでっ!? 」
「ち、ちがっ! ちがうっ! これは事故だってっ!! 倉橋、綾! たのむから、マジで、だれか証明してっ!」
「はぁ……」と、リンちゃんがツインテールをかきあげて、立ちあがった。
「紀伊美、うるさい。事故に決まってんでしょ。中条君が転んで、わたしが下敷きになったの。あと、抱きついたのは、わたしが勝手にしたこと。紀伊美だって、昔、中条君のことが好きだったんでしょ? 中条君が女子になにかするような人だって、本気で思ってんの?」
冷たい猫目で、青森さんを横から見すえてる。
「お、おい、倉橋。さすがに、そんな言い方はないだろ」
だけど、青森さんは太り眉毛をさげて、かなしそうに笑った。
「……いいよ、中条君。リンは、さっき、教室で女子たちがいろいろ言ってたこと、きいちゃったんだよね?」
「べつに。あんなの、わざわざ紀伊美にかばってもらわないでもよかったし。紀伊美だって、本心じゃ、わたしとはなれられて、うれしいと思ってるくせに。
なによ、イイコぶっちゃって。わたしは、紀伊美を言いなりにしてるみたいだし? ウザイ友だちとはなれられて、窪とイチャイチャ中学ライフ送れることが決まって、よかったね」
「ちがうよ、リンっ!」
青森さんの目から、ぽろっと涙がこぼれた。
「わたしだって、リンといっしょの中学通いたかったよ! だって、わたしが私立の中学に行こうと思ったのは、リンが行くって言ったからなんだよっ!? 思い出してよ。だから、わたし、リンと同じ塾に通いはじめたんじゃないっ!」
「……え?」
リンちゃんのほっぺたが、もみじみたいに赤くなった。
「わたしだって、リンとおんなじ部活入りたかった。いっしょに、お弁当食べたりしたかった。リンといっしょに、屋上で恋バナしたかった。わたしとリンと、智士君と、リンのカレシとで、ダブルデートしたかった! わたしだって、わたしだって……」
「紀伊美……」
青森さんが、リンちゃんに近寄っていく。リンちゃんの肩にそっとふれると、リンちゃんは倒れ込むようにして、青森さんに抱きついた。
「き、き……紀伊美~……っ!! さびしいよ~。わ、わ、わたしも紀伊美といっしょの中学行きたかったよ~っ!! 」
リンちゃんが泣いてる。ほっぺたを真っ赤にして、鼻水まで出して。
青森さんも、何度も自分の目元を手でぬぐってる。
「リン、電話するよ。ラインもするよ。近所なんだから、外歩けば、すぐに会えるよ。中学に入ってからだって、いっぱい話そうっ! わたしたち、ずっとずっと、友だちだよっ!! 」
「うん。うんっ!」
まぶしい……。
ふたりの涙の粒は、キラキラの宝石みたい。
こんなまぶしい世界……あたしみたいな真っ黒人間には合わない……。
「あれ? 和泉さん、顔どうしたの?」
青森さんがまばたきした。
「顔が黒いよ。まさか、墨汁かぶっちゃった?」
ヨウちゃんが、ハッとした顔になって、自分のモッズコートを、あたしの頭の上にかぶせた。
「あ、あ~。そうみてぇ。じゃあな。オレは、こいつにつきそってやるから。ふたりとも、理科室の電気消して帰れよ」
まるで、警官につれられた犯人。ヨウちゃんに頭からコートでおさえられて、あたし、廊下に導かれる。
「……あ。そうだ、倉橋」
理科室のドアの前で、ヨウちゃんは立ちどまった。
「倉橋さ。オレに、綾のどこが好きなんだって、きいたよな。
綾は、笑うときは、たいてい、腹の底から笑ってる。オレに媚びて、気に入られたいから笑うんじゃなくって、自分が笑いたいときに、笑いたいから笑う。
あたりまえのことなんだけど、オレはちょっと前まで、わすれてた。カッコつけて、おまえらにキャーキャー言われることばっかり、気にかけてた」
「……中条君」
「倉橋、おまえはどうなんだ? 自分が腹の底から笑えるとき、となりにいてくれる相手は、だれなんだ? その手を、かんたんにはなすなよ」
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