
「あ……そう。バっカじゃない……?」
リンちゃんの目に涙がうかんだ。
「……悪いけど、和泉さんがどうかとかなんて、わたしにはぜんぜん興味ないから。ただ、中条君が気にしてるみたいだから、ちょっとつついてみただけに、決まってんでしょ」
あれ……?
リンちゃん、ヘン。
つりあがり型のカワイイ猫目が、ドロドロと黒く濁ってる。
「……そんなことより、わたしには、中条君が必要なの。あんたよりもずっと前から、わたしは、中条君だけを見てきたの。なのに、おかしいよね。なんで、中条君はわたしじゃなくって、あんたなんかを選ぶのよ」
「……あたし……なんか……?」
「あんたなんかよ! お子ちゃまで、なんにもできなくて。いっつも、中条君にもたれかかって。中条君をふりまわして。中条君のお荷物で。なのに、その自覚もなくてっ!」
あたしもヘン。
リンちゃんに一言言われるたびに、心臓をスパスパ、刃物で切られていくみたい。
マロウの薬で治したはずの傷口まで、パカって赤く開いて、体の中に、黒いモヤがあふれだしてくる。
「だいたい、わたしが、試験に落ちたのは、和泉さんのせいだからねっ! 和泉さんが、わたしから中条君を取りあげたからっ! あんたのせいで、勉強が手につかなくなったのっ! 責任とって、いなくなってよっ!! 」
「い……いなく……なる……?」
「綾っ! 倉橋の言葉を真に受けるなっ!! 」
ヨウちゃんが、あたしの後ろからとびだした。そのまま、リンちゃんのほうに向かっていって、リンちゃんの右肩に手をのばす。
「きゃっ!」
ヨウちゃんが手をのばした先。
リンちゃんの右肩に、黒い炭みたいな、小さな体がのっかってた。銀色の羽のはえた生き物。
黒い妖精っ!?
妖精はパッと飛び立った。
銀色の羽で、ヨウちゃんの顔に突進。
「うわっ!? 」
とっさに手ではらったヨウちゃんが、理科室のイスの足を取られて、前のめりになる。
ガタン、ドシン! ドスンっ!!
「きゃああっ!! 」
リンちゃんの悲鳴。
「くっ! 逃げられたっ!! 」
ヨウちゃんが倒れ込んだ姿勢のまま、ドンと、ゆかをこぶしでたたいた。
「……な、中条君……」
「え? ……く……倉橋……?」
心臓が、ドクンドクンとうるさい。
あたしの心臓についたたくさんの傷口が、伸縮をくり返しながら、黒いモヤを吐き出している。
あふれだした黒いモヤが、あたしの腕や足の内側に、血液みたいに送りだされる。
リンちゃんが、あおむけになって、ヨウちゃんの下に寝そべっていた。ほっぺたをピンクに染めて、おおいかぶさるヨウちゃんの顔に、ぽーと見とれてる。
「ち、ちがうっ!」
ヨウちゃんが、ガバっとはね起きた。
「倉橋、ごめんっ! これは、ちがうぞ。事故だっ!! 」
「……よ、ヨウちゃんが……。ヨウちゃんとリンちゃんと……。や、やっぱりヨウちゃんは、リンちゃんがいいんだ……。おとなっぽい子がいいんだ……。あ、あたしなんか……あたしなんか……」
頭の中がぐるぐるする。
なにか正解じゃないことを言ってる気がするのに、目の前に見えるものでしか、頭が判断できない。
「なに言ってんだ、綾っ!? 今のしっかり見てただろっ!? 」
さけんだヨウちゃんの背中に、リンちゃんがぎゅっと抱きついた。
「いいよ、中条君。気にしないで、つづき」
パッと、教室が明るくなった。
「う、うわっ!? 」
「きゃっ!」
「や、ヤダっ!! 三人して、こんなとこで、なにしてんのっ!? 」
あたしは、理科室の入り口をぼんやりとあおいだ。
青森さんが蛍光灯のスイッチに手をかけたまま、あわあわしてる。
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