
ランドセルを背負って、廊下に出ると、女子トイレから、リンちゃんが出てくるのが見えた。
あれ? 帰ったわけじゃなかったんだ……。
リンちゃんはあたしに気がつかないで、ひとりでどんどん階段をくだっていく。そのまま一階の昇降口までおりるのかと思ったら、二階の廊下で、東にまがった。
……え?
二階には三、四年生の教室がならんでいる。
リンちゃんって、弟か妹がいたっけ?
だけどリンちゃんは、下級生の教室には目もくれず、廊下の先へ進んでいく。
二階の東はじは、理科室――。
そういえば、リンちゃん……いつ、先生に、ヨウちゃんを理科室に呼び出すように言われたんだろ?
帰りの会の後も先も、ずっと教室にいたのに。
ツインテールがふわっとなびいて、理科室の中に消えた。
えええっ!?
パシン。
ドアが閉まる。
ど、ど、ど、どうなっちゃってんのっ!?
あたしも理科室に走り寄って、前のドアから、そっと中をのぞきこんだ。
すぐに目に入ったのは、教室の奥からさしこむ窓あかり。白くぼんやり、濁ってる。
外は雨降り。細いしずくがいく筋も、窓ガラスを伝ってる。シルエットになった薄暗い理科室には、水道のついた実験用の大型づくえが六台ならんでる。
つくえの前で、ふたりの男女が、ぼそぼそと会話していた。
「じゃあ、先生が呼んでたって、あれ、ウソか? 倉橋、なんでこんなことしたんだよ。オレ、きょうは、わりとたてこんでたんだけど。ウソならもう、行くぞ」
目が慣れてきて、ドアのほうに歩き出すヨウちゃんが見えた。
リンちゃん、ウソだったんだ!
先生が呼んだっていうのは、ヨウちゃんとふたりきりになるための口実……。
「待って、中条君っ!」
リンちゃんの細い手がのびてきた。
「あのねっ! わたしね、試験に落ちちゃったのっ! 中条君、わたしのこと、かわいそうだって、思わないっ!? 」
や、ヤダ、なにあれっ!?
リンちゃんの両腕が、後ろからするっとヨウちゃんの左腕にからみつく。

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