
放課後。
「バイバイ~」とか「さよなら~」とか「またな」とかが、とびかう教室で。
ランドセルを背負っていると、「中条君」って、声がきこえてきた。
ふり返ると、リンちゃんが、一番後ろの席のヨウちゃんの前に立っている。
「大河原先生が呼んでたよ。『理科室に来い』だって」
「……え? 理科室? なんでオレが? オレ、べつに、理科係じゃないし。理科室つかった実験も、このごろないけど……」
ヨウちゃんはランドセルをかついで、眉をひそめてる。
「さ、さぁ? わたし、知らない。わたしは伝えるように言われただけだから」
ツインテールを舞わして、リンちゃんはぷいっと、ヨウちゃんから顔をそむけた。
スタスタと大またで、教室から出ていく。
わ……寄せつけないオーラ全開……。
「リンってさ……」
女子たちのひそひそ声がきこえてきた。
「私立、落ちたんだって」
「親に『ぜったい受かれ』って、言われてたらしいじゃん」
「リン、性格キツイから、きょう一日、怖くて話しかけられなかったよ」
「わたしも~。ちょっとでもふれたら、キレられそうだったもんね~」
こういうのって、あたしがなんにもしゃべんなくても、けっきょく、クラス中に広まっちゃうもんなんだね。
「みんな、影口はやめようよ」
青森さんが制してるけど、いったん火がついちゃったら、女子の集団はとめられない。
「そんなこと言ったって、紀伊美だってさ~。たまにつかれない?『なんでいつも、リンに合わせてあげてんだろ』って、思うときない?」
「だ、だから、そういう話は……」
「あ、わたし、ある~」
「わたし、わたしも~」
「紀伊美も、ひとりで受かってよかったじゃん。リンといっしょだったら、中学生になってまで、リンの言いなりだよ?」
「そ、そんなっ!! わたしは、言いなりになんか、なってるつもりはっ!」
青森さん、顔を真っ赤にして反撃してる。だけど、女子たちはきいてない。
「中条君のことだってさ~。正直言って、『いつまで、くっついてんの?』ってカンジだよね? 和泉さんも、あんなにベタベタされたら、イヤでしょ?」
ぎゃっ! とつぜん、あたしにふられてもっ!
「あ、あたしは……えっと。や、ヤだけど……。でも、こういう悪口も、イヤで……」
オタオタしてたら、ヨウちゃんが、あたしの席までやってきた。
「綾、オレ、これから理科室に行って来る。夜に電話するから」
「……でんわ?」
「電話で話すくらいなら、もんくないだろ? どうがんばっても、オレは、おまえに手を出せねぇ距離にいるんだから。じゃあな、かならず出ろよ」
「う……うん……」
ハァと、ヨウちゃん、ため息。肩をすぼめて、廊下へ出ていく後ろ姿、心なしか小さい。
……ごめんね。
羽を切ること。
ヨウちゃんなりに、悩んで考えて、話してくれたってことは、わかってる。
そういえば、ママ、言ってた。
「お互いの気持ちを大切にして、自分がどう動くかを考えていってほしい」って。
あたし今……ヨウちゃんの気持ちを、大切にしてる……?
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