《2》 妖精のお医者さん 8 - ナイショの妖精さん1
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《2》 妖精のお医者さん 8

  05, 2018 21:15
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「正確には、妖精のタマゴを十数個、日本に持ち込んだのよ。お父さんは、『日本の気候にも妖精が適応するか知りたかった』って言ってたけど、本音はきっと、長年親しんだ妖精たちと、別れるのがつらすぎたのね。タマゴはまもなく孵ったわ」


「その中のふたりが、砲弾倉庫で見たあの子たちなんですねっ!」


「いやいや。そんな何匹もヘンな生きモン持ち込んだら、ふつうはだれかに見つかって、大問題になるはずだろ?」


 ホント。なんでこの人、こんなに現実主義者なの?


「あら? 相手は妖精よ? はずかしがりやさんで、きまぐれやさん。ふだんはどこかに隠れていて姿をあらわさないし。ちょっとや、そっとじゃ懐かない。妖精が顔を見せたのは、お世話していたお父さんにだけ。わたしでさえ、会わせてもらえなかったもの」


 それから、お母さんが教えてくれたこと。お父さんと妖精たちとの関わりあい。

 妖精たちは、寒さには強かったけど、日本のジメジメした暑い夏は苦手だった。妖精たちが病気になったり、ケガをしたりするたびに、お父さんは治療しに浅山に行った。

 妖精たちにとって、お父さんはお医者さん。

 なんでもたよれる、身近な人間。


「……だから、妖精たちは、顔だけはお父さんに似てる中条に、助けを求めたんだ……」


 身近な人間が、とつぜん亡くなっちゃったこと。あの子たちはちゃんと、理解してるのかな?

 もしも何年も、中条のお父さんの面影をさがし続けていたんだとしたら、かわいそうすぎる。


「早くあたしが行って、あの子を助けてあげなくちゃっ!」


 翻訳ノートの束を、胸にぎゅっと抱いたら、お母さんはエクボをつくって笑ってくれた。


「ありがとう、綾ちゃん。お父さんのフェアリー・ドクターの知識は、そのノートに訳してあるから、そのとおりにしてちょうだい。だけどその前にひとつ、やらなきゃならないことがあるの」


「……ほぇ?」


「フェアリー・ドクターの洗礼よ」






 中条のお母さんからきいた話だと、「フェアリー・ドクター」になるには、条件があるんだって。


 ひとつめは、「妖精を見たことがある人」。

 ふたつめは、「フェアリー・ドクターの洗礼を受けていること」。


 その「洗礼」っていうのを受けてないと、ノートどおりに薬をつくっても、妖精には効かないんだって。


「妖精はね、風や雨と同じ、自然の一部みたいなものなの。
わたしたちも人間だから、大きく言えば自然の一部なんだけど。人間社会で生きていると、なかなかそれを感じられないでしょ?
『洗礼』は、もう一度自然の営みを、わたしたちの体に取り込むことよ。あらためて、自分も自然の一部なんだって、感じることなの」


 そうすると、妖精とあたしたちとの間に、隔たりがなくなるらしい。

 隔たりがなくなるから、妖精を治す薬を、人間のあたしたちでも、つくれるようになるんだって。

 むずかしくて、あんまりよくわかんなかったけど。


 ようするに、「洗礼」を受ければ、「フェアリー・ドクター」になれるってことだよねっ!


 中条の家から帰るとき、「翻訳ノートがあるんだから、日記は置いてけ」って、ジャイアンみたいな中条に、お父さんの日記帳をぶんどられちゃって。

 日曜日になるまで、あたしは家で、お母さんの翻訳ノートの、「フェアリー・ドクターの洗礼」って項目を、何度も読み返した。


 もうちょっと待っててね。妖精さん。

 あたしがかならず、あなたの病気を治してあげるっ!





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