
「綾、ちょっと冷静になれ! 今は、オレたちが、こんな無意味な争いしてる場合じゃねぇだろっ!? 」
お昼休みにトイレに行こうとしたら、ヨウちゃんに腕をつかまれた。
「お願いだから、話くらいはさせてくれ! おまえが休みの間に、オレなりにいろいろあったんだよ! 綾が、オレんちに来るのをとめられてんなら、学校で言うしかないだろっ!?」
ヨウちゃん、捨てられる寸前の子犬みたいな涙目。
だけど、あたしは「かわいそう」って気持ちを、胸に押しもどして、ヨウちゃんの手をふりはらった。
「や、ヤダっ! そんなこと言って、ヨウちゃん! ハサミ隠し持ってて、あたしがゆだんしたすきに、羽チョッキンするかもしれないじゃんっ!! 」
休み時間が来るたびに、あたしをガードしてくれていた真央ちゃんと有香ちゃんは、今、給食当番で、食器を給食室まで返却中。
だから、あたしからヨウちゃんを遠ざけてくれる人はいない。
「おまえなっ! 出してもない羽を、オレがどうやって、チョン切れるんだよ! わかった、ほら、見ろっ!! 両手、なんも持ってねぇだろ? ポケットも! ほら、なんにも入ってないっ!」
「手でむしられるかもしれないもん~」
ギャーギャー言い合ってたら、リンちゃんと青森さんが階段をのぼってきた。
「あ……私立の試験、終わったんだ……」
あたしの視線に気づいて、ヨウちゃんもふり返る。
いつもの冷めた顔にもどって、背筋をのばして、ジーンズのポケットに両手をつっこんで。
「倉橋、青森、おつかれ」
青森さんが顔をあげた。りりしい眉毛をあげて、にっこり。
「ただいま、中条君」
だけどその横を、リンちゃんがすり抜けた。
……あれ……?
うつむいたまま、大またで歩いて、ひとりで教室の中に入っていく。
「り、リンちゃん……どうしちゃったの……?」
だって、あのリンちゃんが、ヨウちゃんを無視するなんて……。
「あの……中条君たち、ちょっと……」
見たら、青森さんが、掃除ロッカーの横で手招きしていた。
「あのね……リン、試験落ちちゃったの。だから当分、リンの前で、試験の話するのは、やめてあげて。とくに、和泉さん」
グサっ。ようするに、青森さんと窪のときみたいにならないか心配ってこと……。
「い、言わないよ~。でも……リンちゃん、頭イイのに落ちるなんて、どうして……?」
「試験、そうとうむずかしかったのか。青森は? どうだった?」
青森さん、ふせ目がちでピースサイン。
「ウソっ 受かったのっ! すごいじゃんっ!! 」
「うちのクラスだと、あと受かったのは智士君と、佐伯さんと、菊池さんだよ」
「ほぼ、半数か。よかったな、青森。これで、はれて窪と同じ中学に進学できるな」
「――あれ? 葉児たち?」
廊下の先を見たら、窪も階段をのぼってきていた。
「智士君!」
「窪、試験のこときいたぞ。やったな!」
「おめでとう~」
「ははっ。葉児たちカップルに言われると、なんか照れるな」
窪、後ろ頭をかいて、照れ笑いしながら、こっちに歩いてくる。青森さんの横で立ちどまったと思ったら、その左腕に、青森さんの右腕が、するっとからんだ。
わ……今の自然……。
窪も、前みたいに青森さんをつきはなしたりはしない。ちょっとほおを赤らめて、青森さんを見おろしただけで、堂々とその腕を受け入れてる。
チラッと、自分の右腕を見おろしたら、すぐ右にヨウちゃんの左腕。
ぶらりとたれさがったまんま。
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