《3》 広がりゆく闇10 - ナイショの妖精さん4
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《3》 広がりゆく闇10

  28, 2021 21:31
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 ヨウちゃんのモッズコートの背中。

 全身鏡が立てかけてある。

 琥珀色のヨウちゃんの後ろ頭と、ベッドの上で丸まるあたしがうつってる。


 ……黒い。


 あたしの顔、黒い。

 ほっぺたやあごが黒い。

 左耳から、鼻まで。左半分に黒い池が広がってる。


 体を起こして、両手を見おろしたら、やっぱり、墨につっこんだみたいに黒かった。その黒が、首にまであがってきている。


「なんだよ、綾、この姿っ!?   電話で泣いてたのは、このせいか?  なら、なんで言わないんだよっ!」


「言えないよっ!!  言えるわけないじゃんっ!! あたしなんかに、そんな価値ないっ!!  あたしなんかに、人に助けてもらえるような、価値ないっ!! 」



「……価値……?」


 ヨウちゃんの眉がひそまった。


「……なんだよ……価値って……?」


 そんなの、答えなくてもわかるでしょ……?

 あたしがどんなにダメ人間かなんて、ヨウちゃんが一番よく知ってる……。


 ヨウちゃんはのろのろとうつむいた。クラゲみたいにふらふらの手で、ポケットから、マロウの液剤を取り出してる。


 ……薬、持ってきてくれたんだ……。


 だけどヨウちゃんは、液剤の入ったポンプを、こちらにさしだすこともなく、そのまま両手に持って、じっと見つめてる。


「……綾。オレ……考えてたことがあるんだ……」


 ヨウちゃんは、手の中のポンプをぎゅっとかたくにぎりこんだ。


「いまだに、黒いタマゴの手がかりは見つからない。どんなにとうさんの本を訳しても、黒い妖精についての記述もない……。けど、ひとつだけ……おまえを助けられる方法があるって知った……」


「あたしを助ける……方法……?」


 琥珀色の瞳があがって、あたしをとらえる。



「――綾。羽を切ろう」



「……は……ね……?」


 あたしを見つめる、琥珀色の瞳。芯に硬い光が宿っている。


「綾が黒くなっていくのは、人間の綾の体の中に、妖精の綾が入っているのが問題だ。なら、その妖精のほうを消滅させればいい。

妖精を消滅させる方法は、いくつかある。けど、ほとんどが、人間の綾の体にまで負担をかけてしまう。つうか、妖精を消滅させたら、いっしょに、人間の綾まで生命機能を失う……」


「生命機能を失う? ……って……」


「だから……死……」


 言いかけてやめたヨウちゃんの声が、あたしの胃に冷たく落ちていった。


「けど、ひとつだけ、人間の綾の体には、影響が出ない方法があるって知った。それが、妖精の羽を切ることだ」


「い……イヤ……」


 あたしは首を横にふった。


「だいじょうぶだ、綾。怖くない。きっと、痛くもない。オレがぜんぶやってやるよ。すぐに終わる。そしたら綾は、ふつうの人間にもどる。それだけだ。もう二度と、こんなふうに黒くならない」


「それでも……イヤっ!!」


「なんで……?」


「だ、だ、だってっ! だって、そんなのダメだよ、ヨウちゃんっ! あたしだけが治ったって、ほかの妖精たちは黒いままでしょっ! 妖精が全員、もとの姿にもどさなきゃ、意味がないよっ!!」


「オレはサイアク、おまえさえ無事なら、なんだっていいんだよっ!! 」


 ビクッと、胸がはねあがった。

 あたしをにらみつけるヨウちゃんの目に、涙の粒がうかんでいる。





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