
ふとんからまた、目だけ出すと、ヨウちゃんが、あたしのベッドのふちに腰かけてる。
「綾……機嫌直ったか……? オレ、ちゃんと、おまえのお母さんに、あいさつできただろ?」
「……うん……」
思わずつぶやいちゃったら、ヨウちゃんの口元がゆるんだ。
「なんだ。おまえ、やっぱ、しっかりきいてたんじゃねぇか。綾のお母さんて、いつ見ても、美人だよな。オレには、黒い妖精にとり憑かれてるようには、見えなかったぞ」
あれは、ママのただの営業スマイルなんだけど。
ふとんの中で目を動かして、ハート型の目覚まし時計を見たら、夜の七時だった。
ヨウちゃん……こんな時間なのに……とんできてくれたんだ……。
あたしが、あんなを電話かけちゃったから。
やさしさが、チクチク胸に痛い。
「綾、放課後さ……。おまえが帰った後、クラスで、ちょっとした騒ぎがあったんだぞ」
「……騒ぎ?」
ふとんから、そっと目を出したら、ヨウちゃんのほっぺたがふんわりほほえんでいた。
「窪がみんなに、青森とつきあってる宣言したんだよ。青森、うれし泣きしてた。窪がみんなに話す気になったのは、オレたちのおかげだって言われた」
オレたちのおかげ……?
あたしはまた、ぎゅっとふとんの中に頭を引っ込めた。
「あたしじゃなくって、ヨウちゃんだけ・・のおかげでしょっ!! あたし……悪いことしかしてない……」
「いや。青森は、綾がみんなの前で言い放ってくれたのが、結果的にはよかったんだって、言ってた。
窪はさ。照れくさいから、青森がカノジョだってことを、クラスのみんなから隠してただけなんだ。なのに、それが青森を傷つけてた。このままだと、ふたりのみぞは、どんどん深まっていって、お互いの気持ちがはなれていってしまったかもしれない。
だから、ふたりの仲がもどったのは、あのとき、綾がバラしたおかげでもあるんだよ」
あたしの……おかげ……?
「ちがうっ! あたしなんか、アホっ子で! みんなにめいわくばっかりかけてっ!! ダメで、ドジで、なんにもできなくてっ!! あたしにはいいとこなんて、ひとつもないもん! この世に『あたしのおかげ』なんてこと、あるわけないよっ!! 」
ふとんの中に、自分の胸の傷口からわきだした真っ黒いモヤがたまってる。モヤに両手も両足もしばられて、もう、ここからは抜け出せない。
「綾っ!? どうしたんだよ? おまえ、本当におかしいぞっ!」
パッと、ふとんをめくられた。
「や、ヤダっ! 見ないで~っ!! 」
まぶしさに目がくらんで、あたし、両手で顔をおおって、丸くなる。
ガサ……。
すぐ横で音がした。
そっと、両目から指先をどけると、ヨウちゃんがカーペットにひざまずいていた。
両腕をぶらんとたらして。肩から力が抜けている。
「……綾。おまえ……どうして……?」
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