
……だれ……?
『おまえのようなできそこない、人に助けてもらえるような、価値などない』
しわがれた老婆みたいな声――。
コンコン。
ドアが外側からノックされた。
あたしは、ぎゅっと、ふとんのはしをにぎった。
「ママっ!! ほっといてって、言ってるでしょっ!? きょうは夕飯いらないっ! このまま、寝るのっ!! 」
「……綾。オレだよ」
ドキンと心臓が鳴った。
「……ヨウちゃん……?」
もうひとつの足音も、階段をのぼってくる。
「綾、入るわよ」
ママの声。
ガチャっと、外側から部屋のドアを開けられる。
「あんた、まだ、そんなとこに丸まってたのっ!? いいかげんにふとんから出てきなさい。葉児君がわざわざ、こんな時間に、あんたに会いに来てくれたのよっ!」
と思ったら、ママは急に、キレイなおねえさま声になった。
「ごめんなさいね~、葉児君。この子、さっきから、こんななのよ。コーヒー飲める? お砂糖とミルク、ひとつずつでいい? ここに置いておくわね」
「あ。どうも、すみません」
カチャカチャと、マグカップをつくえに置く音。
「……あの、お母さん」
廊下のほうへ遠ざかっていくママの足音を、ヨウちゃんの声が引きとめた。
「え、えっと……。あの、オレ……綾さんとおつきあいさせてもらってますっ! ガキのくせにって、笑われることは、わかってます。けど……真剣です。綾さんを大切にします! だ、だ、だから、あ、綾さんといっしょにいることを、許してくださいっ!」
……ヨウちゃん……。
あたしはそろっと、ふとんのすき間から、目を出した。
ヨウちゃんは気をつけして、ママに深く頭をさげている。わきの下におろした指先、震えてる。
これ……。
あたしが学校で、めちゃくちゃにわめいちゃったことに対する、ヨウちゃんの返事……。
「そう。真剣なの……」
ママはかみしめるみたいに、つぶやいた。
「よかったわ。綾が、ひとりで勝手に舞いあがってただけじゃなかったのね。葉児君から、そう言ってもらえると、わたしもうれしいわ」
「は、はい」
ヨウちゃん、もっと深く頭をさげる。
「つきあうのは、当人同士のことよ。親がとめたりなんてしないから、安心して。……でもね。真剣だって言うなら、お互いの気持ちを大切にして、自分がどう動くかを考えていってほしいの。
なにがあったのかは知らないけど、こんな夜になってまで、ここまで来てくれたんだから。ゆっくり綾と、話し合ってちょうだいね」
「……はい」
ママ……あたしとヨウちゃんが、ケンカしたと思ってるんだ……。
「綾もよっ! どうせ、きいてるんでしょ? 葉児君がこうして来てくれたのに、一方的に拒絶してるようじゃ、あんたのイチゴジャムみたいに甘っちょろい恋なんか、今、この瞬間に終わるわねっ!」
うっ~! ズキズキっ!!
「じゃ、葉児君、手のかかる娘で悪いけど、よろしくね」
「は、はいっ!」
ママは、ぷっくりつやつやのくちびるでほほえんで、部屋のドアから出て行った。
トントンと、階段を小さくなっていくママの足音。
その足音がきこえなくなって、また、時計の針の音がきこえだして。
「……はぁ……緊張した……」
耳横で、ギッと、ベッドがきしんだ。
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