《3》 広がりゆく闇7 - ナイショの妖精さん4
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《3》 広がりゆく闇7

  24, 2021 22:02
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 頭のどこかで、「自分だけはだいじょうぶ」って、思っていた気がする。

「自分だけは、真っ黒にならないでたえられる」って。

「あたしは人間だもん。手のひらサイズの妖精とはちがうもん」って。


 だけど「あたしだけ」なんて、ない……。


 窓の外は夜。部屋の中も、真っ暗。

 だって、明かりをつけたら、自分の両腕の黒が、めだっちゃう。


「綾っ!!  夕飯だって、何度呼んだらわかるのっ!?  冷めちゃうから、さっさと来なさいっ!! 」


 バンと、あたしの部屋のドアが開いた。

 ふとんに丸まって、目だけ出すと、ママが真っ暗な部屋に息を飲んでた。


「綾……? ぐあいでも悪いの? 電気もつけないで」


 窓のカーテンが、サッと敷かれる。

 とたん、蛍光灯のスイッチを押されて、部屋の中に真っ白い明かりがともった。


「ヤダっ! まぶしい! ママ、早く電気消してっ!! 」

「なに言ってんの! ほら、おでこ見せなさい。熱は……ないわね。じゃあ、どうしたの? お腹でも痛い?」

「あたしのことはほっといてっ! 部屋から出てってっ!! 」

「ほっとけるわけないでしょっ! わけを話しなさいっ!」


「ヤダぁっ!! 」


 あたしは、ママの手をはらって、またふとんの中に丸まった。


 だって、こんな真っ黒い腕。見られたら、ママがパニックになっちゃうっ!


「こら、綾っ!! 」


「ほっといて―――っ!! 」


 あたしの絶叫に、ママ、ぽかん。


「……わかったわ。お夕飯は、ママが先にひとりで食べるから。あんたのぶんは、パパのといっしょに冷蔵庫に入れとくわ。食べたくなったら、おりてきなさいね」


 バタンと、部屋のドアが閉まる音がした。

 二階の階段をおりていくママの足音。パタリ、パタリと、間隔を開けて、力ない感じ。


 ……ごめんね、ママ。

 せっかく、ご飯をつくってくれたのに……。



 あたしは、ふとんの中から右手をのばして、勉強づくえの上のキッズケータイをさぐりとった。

 ふとんの中でピッピッと操作して、登録してある電話番号をさがしだす。

 ケータイを耳にあてると、プルルル、プルルルと発信音がきこえてきた。


 ヨウちゃんのお母さんに、電話をかわってもらって。保留のメロディが切れるのを待って。

 電話の向こうが一瞬、無音になる。


「……もしもし。ヨウちゃん?」


「……綾か? どうした?」


「あのね……」


 話そうと、口を開けたとたん、目のふちから涙がこぼれ落ちた。


「あ、あたしね……」


 うっくと、しゃくりあげる。


「あ……あたし……」


「どうした?」


 い……言えないよ~……。


 つごうが悪くなったときだけ、「助けて」だなんて。


 だって、あたし。学校でヨウちゃんに、ぎゃんぎゃんわめいちゃって。

 そのせいで気まずくなって。放課後、教室から逃げ出してきちゃったんだよ!


 それなのに……。


「……綾? 泣いてるのか……?」


 ヨウちゃんの声がけわしくなる。


「な、なんでもない……。ごめんね、へんな電話して」


「おい、綾っ!! 」


 あたしは、プチっと電話を切った。


 ひっく、ひっくと自分のしゃくりあげる声ばかりが、ふとんの中にきこえてくる。

 心臓が痛い。

 みんなにつけられた、たくさんの傷が痛い。

 ぜんぶの傷口が開いて、黒い蛇みたいなモヤが、ドロドロと体中にあふれ出していく。


 ……あたしなんか……。


 あたしなんか……アホっ子で。

 勉強ができなくて。運動も音楽も図工も苦手で。

 長縄もとべなくて。

 いつも、みんなのお荷物で……。


 ヨウちゃんの……お荷物で……。



『そのとおりだ』


 胸の奥から声がした。







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