
「おまえの親のこともあるし。ひとりひとり、妖精が憑いてるかどうかを確認するより、妖精だけ、ガバっと一気に呼び寄せたほうが、手っ取り早いだろ。捕まえてみれば、黒い妖精の生態も観察できる。黒いタマゴと、つながりがあるのかどうかもさぐれる。
つか、それを、今まで、気づかなかったって、オレ、頭わりぃな」
ヨウちゃん、自分の後ろ頭をぽりぽり。
「で、で……でも……ヨウちゃん、日曜は……」
キンコーンと、五時間目開始のチャイムが鳴った。
「決まりな。じゃ、綾。放課後、計画をたてるぞ」
「ま、待って! でも……」
ピシッと、心臓が裂けた。
「い……イタ……」
あたしは、胸を抱えて、廊下にしゃがみ込んだ。
「……綾? どうした……?」
あわてて、あたしの前に身をかがめるヨウちゃん。
……わかんない。
わかんないけど、すごく痛い。
みんなにつけられた傷口がいっせいに開いて、血のかわりに黒いモヤが、あふれだしてくる感じ。
「……ヨウちゃん、そんなに、あたしの家に来たくない……?」
あたしは、目の前の琥珀色の瞳を見すえた。
「……え?」
だけど、あんまり前がよく見えない。両目を泥で塗りつぶされてるみたいで。
ううん、泥じゃなくて、闇。
心臓からあふれだした、黒い……黒い……ドロドロの……闇……。
「あたしなんか……できそこないのカノジョだから、ヨウちゃん、あたしの親に自分がカレシだって、言いたくなくなった?」
「……綾? オレ、そんな話ししてねぇだろ。とりあえず今回は、綾の家に行って確認するより、妖精を一網打尽にしたほうが早いって話で……わかるだろ?」
「ウソっ! ヨウちゃんだって、本当は、あたしなんかイヤなんだっ!! 青森さんや、男子たちや、有香ちゃんや、真央ちゃんや、誠みたいにっ!」
「……綾……?」
ヨウちゃんの眉間に、ぎゅっと深いシワが寄る。
ヤダ……。宇宙人と遭遇しちゃったみたいな目。
ヨウちゃんが、また口を開きかけたとき、廊下をドスドスと足音がやってきた。
「なにやってんだ、中条! 和泉っ! 五時間目ははじまってるぞ! さっさと教室に入れっ!! 」
担任の大河原先生が、上下赤紫色のイモジャージ姿で仁王立ちしてる。
「うわっ!? は、はいっ! 綾、また放課後な」
ヨウちゃんが、あたしの背中を教室へ押す。力を加減したやさしい手のひら。
だけど、あたしは、帰りの会が終わるとすぐに、ランドセルを背負って、教室からとびだした。
「おかえり、綾。冷蔵庫にエクレアがあるわよ」
家の玄関でスニーカーをぬいでいると、リビングからママの声がした。
きょうはおだやかな、明るい声。リビングのドアの中からは、ドラマの再放送の音楽がもれてくる。
それでも、リビングのドアの前を素通りして、あたしは階段を二階へとかけあがった。
自分の部屋のドアを閉めて。ランドセルを足元に落として。背中をドアにつけて。
ハアハア、息があがってる。
ごくんと、つばを飲み込んで。
あたしはそろっと、左手のコートのそでぐちを、まくった。
「……黒い……」
悪寒が走った。
手首も、腕も、肩までも、真っ黒。
ハッとして、右手のそでもまくってみる。
手首から上が黒かった。ひじまで黒い。
……広がってる。
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