
「え? ……えっと……」
ここは、ウソでも怖がって見せるところ?
「ちょっとぉ~、少しはおどろいてよ~っ!」
誠が、顔の前にかかげたお面をおろした。
「和泉さ。長縄大会のことなんか、わすれちゃいな? あんなの、たいして力を入れたイベントでもなかったじゃん。それより、来月って、節分でしょ? オレさ~、こないだ児童館に遊びに行ったら、豆まきの鬼役やって~って、たのまれちゃったんだよね。和泉ぃ。鬼の顔って、こんな感じでいいと思う?」
誠、大きな目をクリクリ。
……誠、もしかして、あたしを元気づけに来てくれた……?
「うん、いいカンジ。誠の鬼さん、カッコイイよ」
「うわっ!? ホントっ!? 和泉がほめてくれたー!! めっちゃ、うれし~っ!! 」
わ……。誠、笑顔全開。ヒマワリみたい。
「なぁなぁ、和泉も豆まきに来ない~? 二月三日の放課後なんだけど~」
「あ~ムリ。その日、こいつ、オレとデート」
とつぜんの低い声にぎょっとしたら、誠の背中で、ヨウちゃんが仁王立ちしてた。
ヨウちゃん、さっきまで、自分のつくえで読書してたのに。
「綾、ちょっと話がある」
ヨウちゃん、親指をたてて、廊下のほうにくい。
「……え? う、うん……」
ヨウちゃんはもうきびすを返して、ひとりでさっさと、教室の後ろのドアへ歩いていく。
あわてて、あたしも席から立ちあがって、ハッとした。
誠が口をとがらせて、うつむいている。
「あ……。ま、誠、豆まきの話は、もうちょっと考えさせて!」
「……い~よ。無理して、来てくれなくても……。どうせ、和泉は葉児とデートなんだろ?」
ピリッと、また心臓が裂けた。
うつむいたまんまの誠の目。ドロドロに濁ってる。
「――なにか、おかしいと思わないか?」
廊下に出ると、ヨウちゃんは腕を組んで、窓に背中で寄りかかっていた。眉をひそめてむずかしい顔。
「うちの学校の長縄大会なんて、たかが、ひまつぶしの行事だろ? みんなだって、それくらい、わかってるはずだ。なのに、あれは、どう考えても騒ぎすぎだよな。だいたい、綾が運動オンチで、いろいろやらかすのは、今はじまったことじゃないのに。なにを今さら……」
う……。
それ……あんまり、フォローになってないような……。
「まさか、クラスのヤツらのほとんどに、黒い妖精がとり憑いてるのか? けど、見た感じじゃ、よくわかんねぇな。いや、でもなんで、寄ってたかって、このクラスの連中にばっか、とり憑く?
綾に集中砲火する理由も説明つかない。ぜんぶ、オレの考えすぎか? そもそも、人をののしることと、黒い妖精に、関連性があるかどうかも、まだ、さだかじゃない……」
口元に手を置いて、むずかしいことを、ぶつぶつ、ぶつぶつ。
アホっ子のあたしには、理解できないよ。
「――綾、日曜に浅山行くぞ」
窓の外を流し見していたヨウちゃんの目が、ふっとあたしにもどった。
「……え?」
「オークとホーソンとアッシュの香で、黒い妖精を呼び出して、一網打尽にする」
「えっと……オークとホーソンとアッシュのお香って、たしか、燃やすと妖精があつまってくる……」
「ああ。前もつかったな」
でも日曜は、ヨウちゃんが、あたしんちに来るはずだった日……。
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