
「和泉のせいだな」
教室にもどると、大岩ににらまれた。
「ああ、和泉のせいだ」
「だれだよ、和泉をこの学校に入れたヤツっ!」
「もう、留年させて、一年からやり直させろよ!」
男子たちの目が怖い。ドロドロ深い闇の底から向けられているみたい。暗がりから、敵意をいっせいに向けてくる感じ。
ううう……。心臓がピリピリする……。
もうすぐ五時間目がはじまるのに。ジャージから、ふだん着に着がえる気力もなくて。あたし、窓際の自分のつくえの上につっぷしてる。
教室のあちこちから、するどい視線を向けられるたんびに、うすっぺらい妖精の羽で。心臓をスパスパ、切られていく気分。
一か所だけじゃなくって、二か所も三か所も、四か所も……。
「……まぁ、今回のは、綾もマズかったよ」
あたしの席にやってきた真央ちゃんの声が、また心臓をスパッと切った。
い、イタ……。
「たしかに、一ケタ台は笑えないね。わたしも、もうちょっと、綾ちゃんには、がんばってほしかったかも……」
さらに、スパっ!
あ、有香ちゃんまで……。
あたし、ふたりにはいつも、守ってもらってきたけど。こんなにアホっ子じゃ、さすがに、あきれ果てるよね……。
「そうだ、真央! わたし、真央にききたいことがあったんだ。こないだ相談した、シックなドレスの案なんだけどね。綾ちゃんの意見じゃちょっと、子どもっぽすぎて、参考にならなくて……」
「ああ。有香のいとこのねえちゃんが結婚式に呼ばれたから、そのドレスを有香が縫う約束したっていう、あれか?」
「そう。あんまり派手だと、花嫁さんを引き立てられないから、落ちついた感じにしたいんだよね。だけど、おねえちゃんは高校生だし、あんまりおとなっぽすぎても、へんでしょ? 折り合いがむずかしくてね」
「わかった。有香、案のノート見せてみろよ。うちがアドバイスしてやる!」
ウソ……。こんなの、はじめて……。
ふたりとも、あたしを無視して、どんどん有香ちゃんの席へ歩いて行っちゃう。
「葉児、おまえ、和泉のカレシだろ? なんでもっとしっかり、和泉を教育しとかなかったんだよ?」
ぎょっとしてふり返ったら、大岩が、ヨウちゃんのつくえに、大きなお尻をのせていた。
大岩は、筋肉ムキムキの胸に、ナイフみたいなするどい目。人がいるつくえの上にのっかるとか。あれじゃもう、ヤンキーだよ。
「……大岩。同じ歳の相手に『教育』とかいう言葉、つかうなよ」
ヨウちゃんが、カバーのかかった英文書から、顔をあげないのは、救いだけど。
「ちょっと、大岩っ! 中条君には関係ないでしょっ!」
リンちゃんが、ズカズカと教室を横断してきた。
「悪いのは、和泉さんなんだからっ! てゆ~か。中条君は慈善活動で、和泉さんとつきあってあげてるだけなのっ! それなのに、和泉さんといっしょに悪者にされるなんて、いいめいわくよっ! ね、中条君、ホント、あんなダメダメな子、さっさと見はなしなってっ!」
う……。
じ、慈善活動……。
またまた。心臓をスパスパ、スパっ!
「い~ずみっ!」
とつぜん、目の前に、鬼のお面があらわれた。
……へ?
厚紙に赤い折り紙を貼って、その上にマジックで顔が描かれてる。毛糸の髪に、大きな目と、ぶっとい眉毛。
「がおおおお~! 食べちゃうぞぉ~っ!! 」

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