《3》 広がりゆく闇3 - ナイショの妖精さん4
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《3》 広がりゆく闇3

  18, 2021 21:06
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 ヘンなの。

 なんで、ヨウちゃん、あたしの家に来るぐらいで、取り乱すんだろ?


「それはさ。なんていうか……『娘さんをください』って、親にあいさつしに行く気分じゃないのか?」


 あたしがぶうぶう言っていたら、真央ちゃんは、かぶった紅白帽ごと、頭をぽりぽりかいた。


「え~? あたしは単純に、ヨウちゃんに、うちに遊びに来てほしいだけなんだよ~?」


 ここは、花田小の体育館の中。

 ひしめき合う全校児童、百人以上。全員、紺のジャージの上下に、紅白帽姿。

 ただ今、お昼休みを返上して、全校行事の「長縄大会」を、開催中。


 毎年、校庭でやってるんだけど、今年は溶けた雪で校庭がぬかるんでて、つかえないなら、体育館に変更なんだって。そこまでしてやらないでも、中止にしちゃえばよかったのに。

 ジャージのそで口に手をつっ込んで、ぶうたれてたら、見慣れた琥珀色の髪の男子がやってきた。


「六年生、集合~。五年が終わったら、次、オレらの番だぞっ!」


 手をメガホンみたいに丸めて、クラスメイトたちをあつめてる。

 ヨウちゃんは体育委員。体育の行事だと、いつも、まとめ役をさせられる。


 長縄大会は、一学年全員、二十数人で、一本の長縄をとぶ。で、とべた数を競う。

 だけど、一年、二年、三年って、学年があがるごとに、とべる数も増えていって。六年が優勝って言うのが、毎年の恒例。

 ちなみに花田小学校は田舎町にあるから、一学年、一クラスずつ。


「五十~っ!」


 長縄をとんでいる五年生たちから、ワッと歓声があがった。

 それでもまだ、だれひとりつっかからないで、長縄はまわっていく。


「五十一、五十二、五十三……」


「スゴイな、今年の五年……」


 まわりで、男子たちが、ひそひそしはじめた。


「去年の六年でも、最高四十一だったよな」

「おまえら、ぜったいに五年以上とべよ。五年ごときに負けたら、最高学年のはじだぞ」


 大岩が、岩みたいにごっつい体で、窪や田中ににらみをきかせてる。


「誠も。おちゃらけてねぇで、マジメにやれよ!」

「あはは。は~い。大岩ぃ~。そんな怖い顔すんなって~」


 紅白帽をウルトラマンにかぶって、誠はへらへら。


 どうしよう……。

 足が震えてきた……。





「い~ち。に~い」


 長縄がまわっていく。


「さ~ん。し~」


 太い縄が自分の足元に来るタイミングで、足を高くあげる。


「ご~。ろ~く」


 六年、二十三人が縄にそって、ずらっとならんで。ピョン、ピョン。

 縄の真ん中には、クラスで一番身長が低い、女子と男子がとなりあってる。つまり、あたしと誠。

 で、縄の外側に行くほど、背の高い子になっていく。だから、右側の一番はじがヨウちゃんで、左側の一番はじが有香ちゃん。


 だいじょうぶ、だいじょうぶ。


 横には、誠。有香ちゃんも真央ちゃんも、ヨウちゃんだって、おんなじ縄の中にいるんだから。

 なのに、足がガタガタ。棒みたい。

 一定のリズムを取るのって、頭で意識したとたんに、わけがわかんなくなる。

 前にリコーダーのテストのときに、「拍がとれてない」ってヨウちゃんに言われたけど。ここに来て、また、その欠点が出てくるなんて!


「し~ち。は~ち」


 あ……なんか、頭の中ぐるぐる……。


「和泉、九っ!」


 横で誠がさけんだ。


 あっ! まだ、足をあげてないっ!


 目の前が真っ白になったときには、遅い。


 パシっ!


 右足首を縄が打ちつけた。


「っあ~っ!! 」


 体育館の中がどよめいた。

 六年をかこんで、一年から五年までの子どもたちが、あたしの足に注目している。

 長縄は、あたしの右足にあたって、とまっていた。


「六年の記録、八回!」


「ええ~っ!? 」


 男子たちから大ブーイング。


「先生、今のナシ! もう一回勝負っ!! 」


 だけど体育の恩田おんだ先生は、メガホンでさけんだ。


「一発勝負っ! よって、六十八回で、五年生が優勝です!」


「わあ~っ!! 」


 五年生たちから、歓声があがった。


「今年の六年、しょぼ~っ!」

「楽勝じゃんっ!! 」

「どっちが年上だよ~っ!! 」


 もりあがる五年生と、拍手する下級生たちの中で、六年生たちはぼうぜんとして、立ちつくした。







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