
「――まぁ、一週間にいっぺん、うちに来るのは、許してもらえてんだろ?」
自分の部屋のベッドの上で、ビビットピンクのキッズケータイを耳にあてて。
ヨウちゃんに、ママの愚痴をまくしたてたあと。ケータイの向こうからきこえてきたのは、ため息だった。
「それは、そうだけど~。でも、なっとくいかないよ~。だって、ママ、若いころからモテまくってたって、いつも自慢してるんだよ? あたしにだって、『自分を磨いて、モテまくれ』って言ってたぐらいなのに。いざ、カレシができてみたら、アレ禁止とか、コレ禁止とか。おとなって、コロコロ意見かえてさ。子どもをしたがわせるんだから、勝手だよっ!」
「……いや……でも、オレ……おまえの親がガミガミ言う気持ち、わかんなくもないぞ。オレんちに来る件に関しては、うちの親もオレも、毎日でもなんでも、かまわないんだけど。
けど、その……外でほら……いろいろ……近所の人に見られるとか、そういうのは……。親としては、やっぱ、子どもがそういうのって、イヤなんじゃないのか……?」
「いろいろって……抱きついてたってこと~?」
「……まぁ……その……そう……」
「え~? じゃあもう、あたしたちイチャイチャできないの~?」
「……外では……な」
ヨウちゃん、もごもご。
「じゃ、手をつなぐのは?」
「人前では……ひかえるか」
「え~。つまんない~」
ぶうたれて窓の外を見たら、とうとう雪がふりだしていた。
風に吹かれて飛んでく、白い雪の綿ぼこり。
「ねぇ、ヨウちゃん。もしかしてさ。ママにも、黒い妖精がとり憑いてるのかな? だって、青森さんがあたしを責めたら、黒い妖精が出てきたでしょ? それならさ。ママがあたしに怒るのも、妖精がとり憑いてるからなんじゃないの?」
「さぁ? それはじっさいに、おまえの親に会ってみなきゃ、オレにはなんとも言えないけど……」
「あ。じゃあさ。次はヨウちゃんが、あたしんちに来てよ。ヨウちゃんちに行くのはダメでも、ヨウちゃんがうちに来るのなら、ママだって、歓迎のはずだもん。で、ママを観察して、妖精がとり憑いてたら、捕まえて」
「って、行くのか? オレが? おまえんちにっ!? うあっ! それ、なんかハードル高いぞっ!」
あれ? ヨウちゃんてば、急に逃げ腰。
「なんで? 前にも、来てくれたじゃん」
「それは、アレだろ? おまえが妖精になったときに、おまえの部屋にあるヒソップの薬を飲ませて、元にもどすために、つれてったんだろ? オレはただ、『休みのプリント持ってきた』って口実をつくって、玄関に行ったまでだ。それと、カレシとして遊びに行くんじゃ、ぜんぜん、話がちがうんだよっ!
妖精がとり憑いてるかどうかは、おまえでも確認できるんだから。とり憑いてたら、おまえが捕まえればいいだろっ!! 」
「あたしじゃ、逃げられちゃうもん」
「は……?」
「自慢じゃないけど、あたし、産まれてから一度も、チョウチョとか、トンボとか、捕まえられたことないよ?」
「う……。鈍いのか……」
ヨウちゃん、がっくし。
「……わかった。……行くよ、綾んち。土曜な」
「土曜は塾だから、日曜」
「了解……」
ヨウちゃんは電話を切った。
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