
家のドアを開けると、玄関マットの上で、ママが仁王立ちしていた。
「綾、きょうも中条さんのおうちにおジャマしてたの?」
「……ほぇ? う、うん」
びっくり。ヨウちゃんのあったかほっぺを思い出しながら、ふわふわ家に帰ってきたのに。
ママは小顔。シワのないつるつるのお肌に、キッとつりあがり型にメイクした眉。子育てママのファッション誌でモデルをやっちゃうくらい、自分磨きに時間をかけてる人。
だけど、きょうのママは、こめかみから血管がピクピク。胸のところでうち巻きにしている、キャラメル色の髪も、心なしかさかだってて。
なんていうか……山からおりてきたヤマンバ……?
「あんた、きょうは、給食食べたら、すぐに下校のはずでしょ? なのに、もう、五時よ。まさか四時間も、中条さんちに、ごやっかいになってたってわけっ!? 」
「……そうだけど。でも、いつものことじゃん。冬休み中だって、しょっちゅうヨウちゃんちに行ってたし。ヨウちゃんのお母さん、いっつも、にっこりしてくれるよ?」
「あのね。笑ってくれるからって、ご迷惑をかけてないってことにはならないでしょっ!? だいたい、あんたは昔っから、なんでも度がすぎるのよ。お正月に、葉児君とつきあい出したってきかされたときは、そりゃ、ママだって、『大物を釣りあげた! さすがはママの子』って感心したわよ。でもね、毎日のように、おうちに押しかけるのは、いくらなんでも、しつれいよっ!」
「……じゃあ、どのくらいならオッケーなの?」
「そうね。多くても、週一ね」
「え~っ!? そんなの少なすぎ~っ!」
「それでも、多いくらいよ! あんたってば、遅くなったら調子にのって、お夕飯までごちそうになってきちゃうし。しかも、車でうちまで送ってもらっちゃうし。なんだかんだで、中条さんに甘えっぱなしで! あのお母さんがどんなにやさしくったってね! そのうち、あんた、笑ってももらえなくなるわよっ!! 」
が~んっ!
「それは、ヤダぁ~……」
「なら、節度を持ちなさい! あ。あと、外でイチャつくのも禁止ねっ!」
「ええっ!? あたし、イチャついてなんかないよっ?」
「ウソおっしゃいっ! あんたと葉児君が、外で抱きあってるのを見たっていう人がいるのよっ!」
「ええええ~っ!? 」
顔がカーッと熱くなる。
「だ、だれそれっ!? そんなのウソだよ! あたしたち、そんなことしてないっ!」
「お向かいの中村さんよ。中村さん、『つむじ風』の常連なんですって。クリスマスの前って、言ってたかしらね。『つむじ風』に行くとちゅうの坂で、あんたたちが抱きあってるのを見たって言うじゃない。なんでも、あんたから葉児君の背中にとびついたんですって?」
う、うぎゃ~っ!!
顔から火出そう!
あ、あ、あれを、人に見られてたの~っ!?
「そ、それはね、ママ! たしかにあたしだけど。だけど、そうじゃなくてっ! だ、だって、ヨウちゃんが遠くに行っちゃう気がして……」
「なにが『遠くに行っちゃう』よっ! どっかの恋愛ドラマのマネして、いっぱしのこと言ってんじゃないのっ!! まったく、『つきあう』の意味も、よくわかってないお子ちゃまのくせにっ! 葉児君は、パパとはちがうんですからね。気安く男の子に、ベタベタするもんじゃありませんっ!」
「ヒドイ、ママっ! あたしが恋バナしたときには、ちゃんときいてくれたのにっ!! なんで、いざ、つきあいはじめたら、また、お子ちゃまあつかいなのっ!? あたしだって、『つきあう』の意味くらい、わかってるもんっ!! 」
「わかってません! わかってるわけないじゃないっ! あんたはまだ、小学生なのよっ!? 恋愛のなんたるかを理解するには、十年早いわっ!
ってわけで、相手の家に行くのは、多くて週一回。あと、外でイチャつくの禁止ねっ!」
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