《2》 もうひとつのカップル14 - ナイショの妖精さん4
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《2》 もうひとつのカップル14

  13, 2021 20:56
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「広がってる……。いつの間に……? あたし、ぜんぜん気づかなかった……」


「やっぱり……綾のアザも、消えたわけじゃなかったのか……」


 手で口をおおって、ヨウちゃん、涙目。


「マロウの液剤は、ただの痛み止め……。症状をひとまずなくすだけで、体からウイルスを追い出すわけじゃない。薬が切れると、症状はまた、広がりはじめる……」


「しかも、全身が真っ黒になっちゃったら、薬は一瞬しか効かないってことだよね……」


 ヨウちゃんののどぼとけが、ごくんとさがった。


 窓の外に、たち込める雪雲。練乳のように白い海。

 鳥かごの中で、黒い妖精は「出せ!」と言うように、檻に肩をたたきつけている。


「……ごめん、綾。今はこんな形でしか、治してやれない」


 ヨウちゃんが、あたしの左手を引き寄せた。

 真っ黒になった腕に、ミストのシャワーをかけていく。

 虹色のベールに包まれて、黒いアザは消える。


「……効いたな」


「……うん」


 これ、夏休みの宿題を先のばしにしているときの気分に似ている。


 きょうはいいけど。

 あしたはいいけど。


 あさっては?



 夏休みが終わるときは?



 あたしの左手をつかむヨウちゃんの右手に、力がこもった。

 ひじをたてて。お姫さまの手の甲にキスする王子さまみたいに。あたしの手の甲を見つめてる。


 ……ヨウちゃん……。


 中庭で青森さんと話していたとき、「オレが努力するしかないんだ」って言ってた。

 誠とあたしが、仲のいいことを気にして。あたしの気持ちをつなぎとめておくために。


 恋愛のことも。黒いタマゴのことも。

 ぜんぶ、ひとりで抱え込もうとしてる……?


「……あのね、ヨウちゃん。自分だけが努力しなきゃなんて、思わないでね」


 あたしの声が、書斎の空気をゆらした。


「あたしも努力するよ。恋愛のことも。黒いタマゴのことも。ヨウちゃんとずっといっしょにいたいのは、あたしだって、同じなんだよ……」


「……きいて……たのか……?」


 こっくり、うなずく。

 ほおを赤らめて、ヨウちゃんは決まり悪そうに、あたしから視線をそらした。

 それから、目を閉じた。

 閉じられたまぶた。長い琥珀色のまつげ。震えてるみたい……。


「わかった。協力して。綾がいなかったら、オレ、もう、ひとりでぜんぶに立ち向かっていける自信がない」



「え? え? わ……」


 ぐいっと手を引っぱられて、あたしの左手、ヨウちゃんのほっぺたにくっついちゃった。

 ヨウちゃん、目を閉じたまんまで、自分のほっぺたに、あたしの手のひらを押しあててる。

 まるで、冷たいあたしの手のひらで、自分のほっぺたの熱を冷ましているみたい。


 カイロみたいにあったかい。ほてったほっぺた。






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