《2》 もうひとつのカップル12 - ナイショの妖精さん4
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《2》 もうひとつのカップル12

  10, 2021 22:18
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「……やっぱり、あの妖精か」


「なんで、青森さんとこに……? ねぇ、この子……生きてるの?」


「わからない。捕まえてしばらくは、手の中で暴れてたけど、青森たちのケンカがおさまったとたんに、電池が切れたみたいに動かなくなった」


「ね、早く薬で治してあげよう」

「ああ」


 天井までそびえる本だな。ぎっしり英文書がつまった一ヶ所に、ビンばっかりならぶ、たながある。

 ヨウちゃんはそこから、ラベルに「マロウ」と書かれた小ビンをおろしてきた。

 それからつくえの上で、小ビンの中身を半分、空のプラスチック容器にうつしていく。


「なにしてるの?」

「薬を、ミストのポンプにうつした。霧吹き状に出たほうが、薬を全体にふりかけやすいからな」

「そっかぁ。ヨウちゃんて頭いいね」

「いや、アホっ子以外なら、だれでも思いつくから」

「なによぅ、せっかくほめたのにぃ~……」


 ぶうたれるあたしに軽く笑って、ヨウちゃんは、妖精の体にマロウの液剤を噴射した。

 つくえの上に、ふわっと、小さな虹ができる。

 水薬が虹色の霧になって、妖精の真っ黒い体に吸い込まれていく。

 その下から、肌色の皮膚があらわれた。


「治ったっ!」


 赤いちぢれたショートヘア。服のかわりに葉っぱを体に巻きつけて。そばかすのある、十歳くらいの男の子。


「……よかった」


「待て」


 妖精へのばしたあたしの手首を、ヨウちゃんがつかんだ。


「……え?」


 妖精のつまさきが、黒く染まっていく。

 黒いアザは、太ももからお腹に。お腹から胸に。胸から首へ。たちまち、もとの墨のような姿にもどっていく。


「マロウの薬が……効かない……?」



「チチチチ」


 黒い妖精が、青い目を開いた。


 両手をつくえについて、むくりと上半身を持ちあげる。


 しぼんでいた銀色のトンボの羽が、背中でピンとはられていく。


公開用 妖精さん4 待て組み合わせ_2





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