
「……やっぱり、あの妖精か」
「なんで、青森さんとこに……? ねぇ、この子……生きてるの?」
「わからない。捕まえてしばらくは、手の中で暴れてたけど、青森たちのケンカがおさまったとたんに、電池が切れたみたいに動かなくなった」
「ね、早く薬で治してあげよう」
「ああ」
天井までそびえる本だな。ぎっしり英文書がつまった一ヶ所に、ビンばっかりならぶ、たながある。
ヨウちゃんはそこから、ラベルに「マロウ」と書かれた小ビンをおろしてきた。
それからつくえの上で、小ビンの中身を半分、空のプラスチック容器にうつしていく。
「なにしてるの?」
「薬を、ミストのポンプにうつした。霧吹き状に出たほうが、薬を全体にふりかけやすいからな」
「そっかぁ。ヨウちゃんて頭いいね」
「いや、アホっ子以外なら、だれでも思いつくから」
「なによぅ、せっかくほめたのにぃ~……」
ぶうたれるあたしに軽く笑って、ヨウちゃんは、妖精の体にマロウの液剤を噴射した。
つくえの上に、ふわっと、小さな虹ができる。
水薬が虹色の霧になって、妖精の真っ黒い体に吸い込まれていく。
その下から、肌色の皮膚があらわれた。
「治ったっ!」
赤いちぢれたショートヘア。服のかわりに葉っぱを体に巻きつけて。そばかすのある、十歳くらいの男の子。
「……よかった」
「待て」
妖精へのばしたあたしの手首を、ヨウちゃんがつかんだ。
「……え?」
妖精のつまさきが、黒く染まっていく。
黒いアザは、太ももからお腹に。お腹から胸に。胸から首へ。たちまち、もとの墨のような姿にもどっていく。
「マロウの薬が……効かない……?」
「チチチチ」
黒い妖精が、青い目を開いた。
両手をつくえについて、むくりと上半身を持ちあげる。
しぼんでいた銀色のトンボの羽が、背中でピンとはられていく。

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