《2》 妖精のお医者さん 6 - ナイショの妖精さん1
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《2》 妖精のお医者さん 6

  03, 2018 20:49
20108092801



 石膏みたいにカッチカチのほお。
 しらっと冷めた目。


 なんで中条っていつも、こうなんだろう。
 あと、もうちょっとで、キラキラの世界に手が届きそうなのに……。


「あのさ。中条って、なにかでワクワクしたことある? アレ知りたいなとか、コレ知りたいなとか、思ったことある?」


 のどから出たあたしの声は、ザラッザラに低かった。


「……はぁ?」


 中条の片眉が、ピクってあがる。


 あ! 今、ゼッタイ「アホっ子のくせに」って思った!


 だけど、それでも。

 郷土資料館の先生の言葉を丸暗記できる頭は、持っているくせに。「どうでもいい」って切り捨てちゃうヤツなんかより、マシだもん!


「中条ってさ。リンちゃんたちのことだって、はじめっから、『ホントの自分を見てない』って決めてかかって、なんにも知ろうとしてないじゃん。そんな中条のこと、リンちゃんたちだって、ちゃんと知ろうとするはずないでしょ!

英語だってさ、わかんなかったら調べればいい。ドイツ語とかフランス語とか、見たこともないような文字じゃないんだよ? あたしだって、アップルとかピーチくらいならわかるもん!

貸して、この日記っ!!  学校の辞書つかって、訳すから!」


「お……おまえな。アップル、ピーチレベルでどうにかなるわけ……」


 中条の声なんか無視して、日記を胸に抱きとめる。

 そのまま書斎のドアのほうに走り出そうとして、ハッと顔をあげた。


 開きっぱなしのドアの前に、知らない女の人が立っていた――。




「あ、あの。あたし、中条君と同じクラスの、和泉綾っていいます」


 アホ毛をゆらして、あわてて、おじぎ。

 書斎のドアの前のおねえさんも、軽く頭をさげてくれたけど、すぐに眉毛をまた、キッとつりあげちゃった。


 どうしよう。怒ってる!


 きっと、あたしたちが勝手に、あかずの間に入ったから。

 中条のおねえさんかな?

 カワイイ感じに見えるのは、有香ちゃんと身長が同じくらいで、目が大きいから。ゆるいウエーブのかかったミディアムヘアの耳横を、キラキラのピンでとめている。


「綾ちゃんの言うとおりよ、ヨウちゃん」


 ……え? ヨウちゃん……?


 チラッと中条をふり返ったら、中条ののどぼとけがゴクッとさがった。


「……かあさん」


 え、ええっ!?  お母さんっ !?


 思い出したっ!

 授業参観のとき、中条のお母さんは、若くてカワイイって有名だったんだ。


「お母さんも、ヨウちゃんには、がっかりしたわ。いつかヨウちゃんが、お父さんのことに興味を向けてくれるかもしれない。自分からこの部屋の鍵を開けてくれるんじゃないかって、ずっと期待して待ってたのに。

開けてはくれたけど、ヨウちゃんが興味を持つものは、この部屋にはなかったのね」


 中条は、気まずそうに目をふせてる。


 って……「ヨウちゃん」って中条のこと……?




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