《2》 もうひとつのカップル11 - ナイショの妖精さん4
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《2》 もうひとつのカップル11

  08, 2021 22:07
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 わ……。

 カップルがリアルで抱きあってるところなんて、はじめて見た……。


 それも、両方、いつも同じ教室で勉強しているクラスメイト。

 なんだか、自分を見ているみたいで、胸の中がくすぐったい。


「……紀伊美……」


 窪は、青森さんに抱きつかれて、体の力が抜けちゃったみたい。

 ほっぺたを赤く染めて、中庭の花壇の前で、ぽ~とたたずんでいる。


「……智士君。わたし、智士君のことが好き……」


 窪の胸に顔をうずめたまま、青森さんがつぶやいた。


 きゃ~っ!!

 な、な、な、生告白っ!


「綾、帰るぞ。これ以上ここにいたら、オレら、ジャマだ」


 ヨウちゃんが後ろから、あたしの肩を押した。


「……うん」


 中庭から退散しながら、あたしはヨウちゃんの左手のこぶしをのぞき込んだ。

 ヨウちゃん、さっきからずっと左手だけ、開かない。


「ねぇ……ヨウちゃん、その中……」


「……ああ。綾、オレんち寄ってくだろ? 家に帰ったら、見せる」


 ヨウちゃんは、左手をそのまま、モッズコートのポケットの中につっ込んだ。






 ランドセルを背負って、ふたりならんで。

 高台の住宅街へ向かう坂をのぼって。

 坂のてっぺんに、白い三角屋根の家が見えてくる。屋根には風見鶏。

 ハーブのお庭にかこまれたこのメルヘンなうちが、自宅カフェ「つむじ風」。ヨウちゃんち。


「ただいま」

「こんにちは~。おジャマしま~す」


 カウンターでケーキの準備をしていたヨウちゃんのお母さんが、ぽっくりエクボでふり返った。


「は~い。綾ちゃん、ごゆっくり~」


 ゆるいウエーブのかかったミディアムヘア。ヨウちゃんのお母さんは、いつ見ても、あたしとあんまり歳がかわらないんじゃないかと思うほど、カワイイ。

 きょうも店内には、バグパイプやハープのケルトミュージックが流れてた。パチパチと炎をあげるのは、本物の薪ストーブ。壁にさがるドライハーブ。

 イギリスの民家みたいな店内で、お客さんが数人、ゆったりとハーブティーを口に運んでる。


 このカフェの地下に、ヨウちゃんのお父さんが、生前つかっていた書斎がある。

「地下」って言っても、地面にうまっているわけじゃない。この家は、海に面した崖に、足場を組んでへばりついてるから、地下があるのは崖の中腹部分。書斎には広い窓があって、一面海を見わたせる。



 階段をおりて、書斎の分厚い木のドアを開けると、ヨウちゃんは真っ先に、石油ストーブをつけた。

 本の紙のにおいのする書斎に、あたたまった灯油のにおいがひろがる。

 ランドセルをゆかにおろして。コートをイスの背もたれにかけて。それから、ヨウちゃん、やっと、にぎり込んでいた左手を開いた。


 反対側からのぞきこんだら。全身を真っ黒に染めた妖精が、横たわってる。

 足をくの字におりまげ、横向きになって。棒切れみたい。








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