
階段をおりて。昇降口でスニーカーにはきかえて。
下校中の下級生たちが、のんきに歩く校庭を、キョロキョロ。
「紀伊美~」って呼ぶ、リンちゃんの声がきこえてくる。だけど、肝心の青森さんの姿は見あたらない。
こっちじゃないのかな……?
見あげれば、雪雲が空をおおってる。桜並木は、葉のない枝を、寒そうに天に向けてる。
校舎とフェンスのすき間を通って中庭にまわりこむと、ぼそぼそ、人の話し声がきこえてきた。
南校舎と北校舎の間に、体育館くらいの空間がある。そこが中庭。校舎の壁にそって、植え込みがあって、真ん中の花壇にパンジーが花開いている。
花壇のレンガに、男子と女子がならんで腰かけていた。
背の高い琥珀色の髪の男子と、しょんぼり肩をちぢこませた女子。
ヨウちゃん……先に、青森さんのこと見つけたんだ……。
「……青森、あんま気を落とすなよ。さっきのアレは、窪もテンパって、めちゃくちゃ口走っただけだと思うぞ。深い意味なんてないからな」
ヨウちゃんのなぐさめに、青森さんは首を横にふった。
「深い意味、なくないよ。だって、智士君、今までもわたしとつきあってることを、みんなにナイショにしてたんだから……。たぶん……自分のカノジョがわたしだって、人に知られたくなかったんだと思う。
わたしみたいなかわいくない子が、カノジョだなんて……」
「いや……それはないだろ。だって、たしか、窪のほうから、青森に告白してきたんだったよな?」
そういえば、そんなこと、青森さん、話してた。ちょっと前に、ヨウちゃんちの自宅カフェに、リンちゃんといっしょに押しかけてきたときに。
「そうだけど……」
「だったら、好きな相手とつきあえてるんだから、窪だって、うれしいんじゃないのか?」
青森さんはうつむいたまま、また、首を静かに横にふった。
「最初は……よろこんでくれてたかもしれない。でも……つきあいだして、わたしのことをよく知って。智士君、わたしに幻滅したのかも……。きのうだってね、ケンカしたんだ。
わたしが、塾で、足を開いて座るから。『女子として行儀悪すぎ、それって、どうなの?』って言われて。わたし、『ほっといてよ』って怒った。そんな、かわいくないわたしとさ、『なんでつきあわなきゃならないんだ』って、あれが、今の智士君の本音かもしれない……」
「今の本音……か」
ヨウちゃんは胸をそらして、雪雲をあおいだ。
「人の気持ちは、かわっていく……。告白がゴールじゃない。相手の気持ちをつなぎとめておくのって、むずかしいな……」
……え? なにそれ……?

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